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伊那市長のたき火通信

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長野県伊那市

■空飛ぶ狛犬(こまいぬ)
伊那市長谷浦(はせうら)出身の石工に「小松利平(こまつりへい)」がいます。文化元年(1804年)の生まれで、明治21年(1888年)に没していますから、江戸から明治に移った激動の時代に生きた石工です。小松利平は長谷の浦から、優れた技術を持つ旅石工として高遠藩を出ます。そして福島県石川郡浅川町(あさかわまち)に住み着きました。理由はこの地からは良質な凝灰岩(ぎょうかいがん)の「福貴作石(ふきざくいし)」が採れたからと言われています。白河市では「白河石」と呼ばれています。そして慶応2年(1866年)、利平の小松家に養子に入った「小松寅吉(こまつとらきち)」も希代の名工でした。明治維新真っただなかに生きた寅吉は、近在近郊でその名を知られる石工でした。それからもう一人、寅吉の弟子として高い技術を身に着けた「小林和平(こばやしわへい)」(明治14年生まれ)です。
小松利平、小松寅吉、小林和平は3大名工と呼ばれ、利平は江戸時代に耕地の少ない高遠藩から、鑿(のみ)と玄翁(げんのう)を担いで旅石工として全国に出稼ぎに出たのです。なかには利平のようにそのまま脱藩した石工もいたことでしょう。利平、寅吉、和平に共通している他にない技についてお話します。この地方では加工しやすく摩耗しにくい「福貴作石」が産出されました。この石を人力と鑿だけで彫ったのが「空飛ぶ狛犬」、「飛翔獅子(ひしょうしし)」です。この空飛ぶ狛犬は私たちの狛犬に抱くイメージを覆します。そもそも狛犬は神社に口を開けた「阿像(あぞう)」と口を閉じた「吽像(うんぞう)」が蹲踞(そんきょ)しているのが一般的で、神域を守る霊獣です。浅川町や白河の狛犬は、まるで空を飛んでいるような躍動感と、独創的なポーズで飛び回るかのようなデザインです。
この地方の冬は寒くまた雪も多く降ります。福貴作石で作られた石造は、水が溜まらないよう凍らぬよう設計されて、風土にあった高い知識に裏づけされた構造になっています。なかでも、私の目を引いて離さない空飛ぶ狛犬に、小林和平の作品があります。母獅子の周りには小さな獅子が飛び回る作品がいくつもあります。
和平は生まれて間もない幼子(おさなご)ふたりを相次いで亡くし、ただひとり成長した娘も二十歳前に失っています。和平は空飛ぶ狛犬に、亡くした3人の子どもにいつでも会えるように彫ったのかもしれません。

伊那市長 白鳥考

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