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家庭教育アラカルト(19)

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長野県東御市

~ずっと考え続ける父親に~
和小学校 前教頭 髙橋 俊(たかはし しゅん)
強豪チーム相手に連続完投勝利を挙げた私に、笑顔一つ見せず、父は「どうして二点取られた?」と尋ねました。「味方がエラーしたから」と話す私に、父は「全部一人でアウト(三振)にすればいい」と言いました。卓球選手だった父譲りの負けん気の強さで、優しい言葉をかけられること、助けてもらうことが大嫌いな私にとって、父の言葉は「お前ならもっとできるはず」という褒め言葉に感じられました。私の野球への情熱はさらに燃え上がり、チームメイトを責めることもその日からなくなりました。
「体を鍛える」「自分で小遣いを稼ぐ」を目的に小三から始めた新聞配達、雨の朝は必ず父も起きてきました。私のことが心配だったのでしょう。「手伝おうか?」と声をかけられたことはありません。雨脚が強く、私がSOSを出した時だけ、車で配達を手伝ってくれました。大学受験が目前に迫った高三の冬、体が丈夫だった私が、プレッシャーから心と体の調子を崩しました。父は私が家を出る時間を見計らい、車にエンジンをかけて待っていてくれました。放課後、高校の玄関を出ると敷地の端に父の車がありました。私のやる気を引き出し、本当に苦しいときだけ手を差し伸べてくれた父。私の長所「体と心の強さ」は父のお陰です。
一月の末、体調がすぐれないという父に会いに帰省しました。もう食事がとれなくなっていた父が、優しい表情で「俊君か。元気か」と、私を気遣ってくれました。三日後、父は旅立ちました。晩年の父は、私に会うと本当に嬉しそうな笑顔を見せました。きっと幼い頃の私に、もっと色々なことをしてあげたり、助けたり、優しい言葉をかけたり、微笑んだりしたかったのでしょう。でも、私の性格をよく理解し、将来の私のことを考え最善の関わりをしてくれた父の「本物の優しさ」に、別れた今やっと気づきました。
思春期の息子と娘の父である今の私は、彼らの願いにできる限りの協力をし、部活や習い事の送迎、優しい言葉がけ等をしています。けれど、それは本当に我が子を理解できてのことなのか、この文を書きながら自問自答しています。「どうすることがこの子のためになるのか」は、なかなか難しい問題です。

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