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自治体の皆さまへ

心の眼(188)

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長野県東御市

◆猫の事務所 二
人権同和教育指導委員 坂井 美嗣(さかい よしつぐ)
猫の事務所は宮沢賢治の寓話です。猫の社会では、身体が煤(すす)けているというだけの理由でかま猫たち(毛の色は問いません、竈(かまど)で寝る癖があり、それによって煤(すす)けている猫は、皆かま猫です)を嫌い差別しています。事務所の猫たちも、新任のかま猫をいじめ、仕事を取上げ無視します。この様子を見ていた獅子が怒って事務所を廃止します。
作者の宮沢賢治は文中で獅子のこの行為に対して「ぼくは半分獅子に同感です。」と言っています。半分とはどういうことでしょう。廃止までしなくてもよいのではないか、という思いからでしょうか。獅子は事務所の猫たちに、彼が煤(すす)けている理由や、彼も彼なりに竈(かまど)で寝ないように努力していることを理解させ、今までのいじめに対して反省を促し、互いの理解のもとで仲良く仕事をさせるという選択肢もあるからでしょうか。
いやそんなことをしたところで、事務所のかま猫以外にもかま猫はたくさん暮らしており、同様の差別を受けているはずですし、今後も差別に苦しめられるはずです。事務所を廃止したところで、かま猫たちへの偏見や差別はなくなりません。問題の根本的な解決にはなりません。だから、半分なのではないでしょうか。猫社会全体の中でかま猫たちへの理解を深めていく必要があるのです。
人間社会で千年の歴史があるといわれる部落差別を考えてみましょう。部落差別の解消を目的とした水平社の創立から昨年で百年を迎えました。長年の運動にも関わらず、部落差別はなくなっていません。新たにインターネット上では部落の所在をあばき、さらすという憎むべき卑劣な行為が問題になっています。
「そっとしておけば部落差別はなくなる」という方がいますが、それでは部落差別はなくなりません。部落差別をなくすためには、一人ひとりが、部落差別の成立が非科学的で、不当性に満ちたものであることを正しく理解し、部落差別を許さないという意識で行動することが大切です。そして、家庭、職場、地域で部落差別を許さないという意識の輪を広げ、社会を変えていかなければ部落差別はなくなりません。
この様な行動を起こすことは、私たち人間の責務と使命であって、あらゆる差別や偏見の解消に繋がることなのです。

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