■希少動植物調査員からの報告(49)
小滝堤は、小滝集落内の道路沿いにある大きな堤です。周りには人家もあり、堤の水は水田の用水として使われ、集落にとってはとても大切な堤です。
この堤では、私たちのこれまでの調査で27種のトンボ類を始め、イトモ(環境省:準絶滅危惧、長野県:絶滅危惧II類)といった希少な水草も見つかり、多様な生き物が暮らす場となっています。
さらにここで昨年、シナイモツゴが見つかっています。この魚は、成魚でも8~10cm程度の小魚ですが、環境省の絶滅危惧IA類に指定されている希少種です。長野県では、長野市と上田市、そして栄村でしか生息地が確認されていません。そのため、長野県でも絶滅危惧IB類、及び長野県指定希少野生動植物にも指定され、捕獲・採取等は、県知事の許可が必要となる極めて希少性の高い生き物です。
◆シナイモツゴ、いただきます!
実は、シナイモツゴが堤に飛来する水鳥たちの格好の餌になっているようなのです。
これまで小滝堤周辺では、ハクセキレイ、カルガモ、アオサギなど、多くの野鳥を確認しています。その中でも、カワセミやカイツブリ、カワウなどは、魚採りの名人です。
カワセミは、「翡翠(ひすい)」とも書きます。飛んだときに背中のブルーがひときわ美しく輝き、一目見たら忘れられません。
毎年このカワセミが小滝堤周辺で営巣し、雛を育てているようです。水辺の枯れ枝などに止まり、時折水中に飛び込む様子が見られます。どうやら、堤の中にいるシナイモツゴを狙っているようです。
◆素潜りの名人 カイツブリ
今年は、堤でカイツブリも何度か目撃しました。この鳥は、体長が26cmほどの比較的小型の水鳥です。一見カモの仲間のように見えますが、別の種類の鳥です。
この鳥は、素潜りの名人です。水に潜って魚を捕らえるのです。また、水面に浮く巣を作ることで知られており、「鳰の浮巣(におのうきす)」と呼ばれています。「鳰(にお)」とは、カイツブリの古い呼び名です。
今年は、小滝堤の奥にあるショウブやアシの茂みで営巣したようです。9月はじめ、ひな鳥が水面を泳いでいる姿も確認しています。どうやらご家族で、シナイモツゴを召し上がっているようです。
◆大食漢のカワウ
小滝にお住まいの方から、「カワウも来ているぞ。」と、情報がありました。私たちも今年6月に堤で実際にカワウを確認しています。
カワウは大型の水鳥で、河川では水に潜って鮎などを大量に食べるため、その被害がよく報道されています。村内では、千曲川の川原などでよく見かけます。そのカワウが小滝堤のような池にもやって来ているのです。やはり、シナイモツゴを餌にしているのでしょうか?
カワセミもカイツブリもカワウも、自分たちが食べている魚が希少種だなんて、ちっとも考えてはいないでしょう。私たちからすると、シナイモツゴを食べるのは止めて!とも思うのですが…。
いずれにせよ、私たちの思いとは裏腹に、小滝堤が彼らにとって、貴重な餌場となり、命をつなぐ生態系の一つの環になっていることは確かです。
こうした様々な生き物が暮らし、命の営みを見られる環境が、ごく身近にあることも、栄村の宝物の一つだと思います。
(栄村希少動植物調査員・涌井泰二)
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