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歴史の小箱 No.431

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■新規収蔵資料 郷土ゆかりの画家と歌人のコラボ作品「いろはトランプ」
今回は現在開催中の新規収蔵品展に展示中の資料の中から、昨年度寄贈を受けた「いろはトランプ」を紹介します。
この資料は読み札と絵札のセットで遊ぶいろはがるたなのですが、絵札単体ではトランプとしても遊べるという、なんとも不思議なカルタです。このカルタは郷土ゆかりの画家と歌人によって作成されました。
絵札を担当したのは洋画家・細井繁誠(ほそいはんせい)氏(一九〇五-七七)です。細井氏は三ツ谷新田に生まれ、若くして画家を志します。高校卒業後、磐田に住んでいた洋画家・和田三造(わださんぞう)のもとで油彩画を学び、昭和三年(一九二八)に油彩画《路地》で帝展(現・日展)に初入選しました。以後、同十三年まで連続入選を果たし、その翌年には無鑑査(審査・鑑査なしで出品ができること)となりました。昭和九年ごろには三島に戻り、戦時中は従軍画家として中国へ渡っています(当時のスケッチを板絵に起こした作品《南京》も本企画展にて展示中)。また、戦後は三島市美術展設立に尽力し、審査員を歴任するなど、三島の芸術振興にも努めた作家です。
読み札の担当は歌人・大岡博(おおおかひろし)氏(一九〇七-八一)です。詩人・大岡信(まこと)氏の父でもある大岡氏は静岡市に生まれ、大正五年(一九一六)に三島に移住しました。歌人・窪田空穂(くぼたうつぼ)のもとで歌を学び、昭和九年に歌誌『菩提樹(ぼだいじゅ)』(『ふじばら』から改称)を主宰しました。同三十五年には静岡歌人協会を設立し、初代会長として後進の指導にあたりました。また、小中学校の教員として三島市など県東部各地で活躍し、戦後は静岡県教職員組合委員長、初代県立児童会館長(現静岡科学館る・く・る)を務めた人物でもあります。
そんな二人がこのカルタを作成したのは、昭和二十三~四年頃だと推測されます。戦後まもない混乱期、二人で当時の苦しい生活の一助にしたいと計画した仕事だったそうです。しかしながら当時、カルタやトランプを製造・販売するには、「骨牌(こっぱい)税」(明治三十五年〈一九〇二〉に導入、昭和三十二年にトランプ類税と改称、平成元年の消費税導入によって廃止)という税金が課され、製造にも免許が必要でした。この税金による影響なのか、このカルタが販売されたのはたった一回切り、増刷されることはありませんでした。
そんな油彩画専門の細井氏による珍しい水彩画の絵札と大岡氏の洗練された詞(ことば)の読み札をぜひお楽しみください。

楽寿園内の郷土資料館では、「新規収蔵品展」を9月29日(日)まで開催しています。

郷土資料館(楽寿園内)
【電話】971・8228

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