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自治体の皆さまへ

こんにちは、教育長です

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静岡県下田市

◆「わな」
井上靖の自伝的長編小説「しろばんば」に、洪作(こうさく)少年たちが作った罠にヒヨドリ(野鳥)がかかり、亡骸(なきがら)の始末をめぐり少女あき子たちを悲しませるというシーンがあります。「バタン、キュー」と表現しているように、まさにギロチンのような罠で、その構造までは描かれていません。小説の舞台、伊豆市湯ヶ島での呼び名は分かりませんが、下田のお年寄りはその罠を「ばんな」と呼んでいたようです。
実はこの「ばんな」の作り方を知っているお年寄りが近所にいて、教えていただいたことがありました。私が教師になって間もない頃でした。中学校国語の教科書に「しろばんば」の、このシーンが掲載されていましたので、その当時この罠が一体どんなものなのか気になっていたところ、たまたまそのお年寄りに出会ったのです。山に入り二時間ほどかけて作って見せてくださいました。構造があまりにも複雑で、描いても話しても説明が困難なほどです。
放課後、私は生徒たちを中学校の裏山に連れて行き、その罠を再現しました。部活動後毎日観察していましたが、風雨に晒(さら)され一週間ほどで潰れました。どうやら小鳥が一羽かかったようでしたが、姿はありませんでした。生徒が罠に挟まっていた青と白の縞模様の風切り羽を図鑑で調べると、「カケス」だと分かりました。私は、物語の一場面を再現したい、体験させたい一心で作ったのですが、今では動物虐待にあたるのでしょうか。この文章を書くのにも少し躊躇(ちゅうちょ)してしまいましたが、罠を作ったり、仕掛けを作ったりする中で生き物の生態、自然の営みや不思議を知り体感することは今の時代だからこそ子どもたちに味わわせたいと思います。
「文部科学省が二万人以上を追跡調査したデータを分析したところ、小学生の頃に自然体験や読書、お手伝いなどを多くした子どもは、高校生の時に自尊感情や外向性などが高いことが分かった」とは、ある新聞のコラムです。稲梓小の子どもたちは夏休み明け、地元の川でウナギのもじり体験をしました。「体験格差」という言葉が聞かれる昨今のようですが、下田の子どもたちが、地域の皆さんによって多くの体験をさせていただいていることに感謝しています。

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