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[特集]ニジイロ 多様性ってなんだろう?(3)

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静岡県島田市

■researcher 研究者
「セクシュアリティー教育は大人と子どもの両方に必要」

愛知大学文学部
松尾由希子(まつおゆきこ)教授
・セクシュアリティー教育、日本教育史の研究者。静岡県内における居場所事業や教員研修などでも講師を務める。

▽LGBT教育の必要性
現在、保健体育の学習指導要領では、恋愛に関して、異性愛のことしか記載されていません。しかし、実際にはいろいろなセクシュアリティー(性のあり方)の人がいて、異性愛のみ教えることで、不安を覚える子どもがいます。このため、同じ時期から、セクシュアリティーのことを教える必要があります。国内では、LGBTの認知度は高いですが、その他(Q)の認知度が低い状況です。若年層には、Xジェンダー(男性・女性のいずれにも属さない性自認を持つ人)が多くいます。いろいろなセクシュアリティーがあることを知ってもらいたいですね。
教員からは、授業内容の相談を受ける機会があります。そこでお伝えしたいのは、ポジティブに教えてほしいということです。確かに、教員は情報として、悩みから自殺につながる事例なども勉強しています。ですが、それはあくまで教える側の知識として必要なこと。子どもたちへの教育は、肯定的に示すことが大事です。「自分らしく生きられるためには、世の中がどうなったら良いか考えよう。楽しく生きてる人だっている」と、ポジティブにセクシュアリティーを扱ってほしいです。

▽教育現場の現在
現場では、養護教諭を含め多くが研修を受けています。私も、静岡県内で多くの教員研修を担当しました。2015年、学校には文部科学省から性同一性障害や性的マイノリティーに関する児童からの相談などについて「必ず対応が必要」とする通知が出ました。以降、教員の研修や相談体制は強化されてきています。

▽大人(保護者)への教育
子どもや教員だけでなく、保護者に対する教育の必要性も感じています。保護者の理解がなければ、学校での対応も限られてくるからです。保護者がカミングアウトを受けて過度に動揺することで、それが子どもの精神状態の悪化につながることもあります。「自分の子が不幸になるんじゃないか、という気持ちが分かる」と子どもを持つ先生から聴いたことがあります。それは、これまで伝えられてきたネガティブなイメージによるものだと思います。そのイメージを変えていくためにも、子どもと保護者、両方に教育の必要があると思います。例えば、無意識の差別は子どもたちにもあります。オカマやホモ・レズなど、このような言葉の積み重ねで、当事者はダメージを受けます。自分の子だけでなく、その周りや学校にも当事者はいます。子どもたちは、無意識の差別をしているかもしれないと気付いてほしいし、大人は、気付いたら声掛けをしてほしいですね。セクシュアリティーは人それぞれで、同じセクシュアリティーでもグラデーションがあります。いろいろな人がいることはとても当たり前のことで、だからこそ楽しい。これを勉強したり、当事者と触れ合う機会があったりしたら、不安に思わずに、楽しんでほしいです。

■person 人物
「特別じゃない みんな同じ土地で生きる人」

LGBTQ支援団体「QUEBEC(キュベック)」
永田怜(ながたれい)さん
・県内の公共施設や学校などで、自身の経験を元にした講演活動を行う。

▽これまで感じた悩みや葛藤
学生時代はLGBTの知識を学ぶ場が無かったので、生まれた時の性別が女性である自分が、女性を好きになることは、自分だけがおかしいんじゃないかと考えていました。心の底から笑えず、親友にも話せない時間がありました。あるきっかけから治療を開始し、身体はだんだんと変化。けれど、周りの視線だったり、多目的トイレを身体的な障害もない自分が使用して良いのかという葛藤もあったりして、公共トイレの使用には、とても悩みました。

▽活動の原点は人との出会い
きっかけは、看護師として働いていた時にトランスジェンダーの患者さんと出会ったことです。その方には自分が当事者であることを話したのですが、退院時に「自分は治療(性別適合手術)を諦めてしまったけど、あなたはまだ若いから夢と希望を持って胸を張って生きてね」と声を掛けてもらい、勇気付けられました。当時は職場の一部にしか自分のことを公表していなかったのですが、その患者さんが入院した時に、職場内がざわついたことがあり、同じ当事者として苦しかったですね。「人種や性別などに関係なく平等に接する」という看護の基本理念が守られていないことに気付き、誰かが発信しないといけないと思いました。ここから、私の活動が始まりましたね。

▽活動で大切にしている思い
講演活動をする中で「特別視する必要はないんだ」と気付いてくれた参加者がいました。まさにそれが伝えたかったことです。当事者にとって、カミングアウトしても変わらず接してくれることは、とてもうれしいことです。皆さんに話をする時は、押し付けたり、理解を求めたりするのではなく、一人の人間として見てもらうことを心掛けています。自分たちのありのままの姿を伝えることで、聴いた人にその思いを知ってもらいたいです。

▽みんなが生きやすい社会へ
これまでは、こちらから話をする機会がほとんどでした。今後もまだまだ話を続けていく必要はあると思いますが、それに加えて、みんなが同じ空間で同じ時間を過ごすことが大切だと考えています。やはり自分が知らないことって、受け入れがたい。でも、当事者と接して、知ろうとする、考えようとすることで、その人にとってその後の人生はかなり違うと思います。「同じ土地で同じように生きている人間だよ。特別ではないし、特別扱いしてほしいわけではないよ」ということが一人でも伝われば、活動の意味があります。LGBTQに限らず、皆さんが「ねばならない」ではなく、「したい」を大切にできるよう、お手伝いをしていきたいですね。

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