染谷絹代(そめやきぬよ)市長が自ら、市政運営の方針を分かりやすくお伝えします。
今月のテーマ:富士山静岡空港東海道新幹線新駅構想について
■静岡空港新幹線新駅構想の経過
今月は、このところ話題を集める富士山静岡空港(以下、静岡空港)の東海道新幹線新駅構想について、これまでの経緯や実現に向けての諸課題をお話しさせていただきます。
そもそも県が静岡空港の候補地を、島田市と牧之原市にまたがる現在の場所に決定したのは1987年のことでした。候補地の直下に東海道新幹線のトンネルがあるため、空港に直結する新駅構想は当時から取り沙汰され、その頃は、空港ターミナルを牧之原市側に、新駅は島田市側にと地元要望が盛んでした。しかし2000年には、知事が会長を務める東海道新幹線静岡空港駅設置期成同盟会において「静岡空港新駅は『直下駅』」と決定され、以来、新駅は空港直下を前提に議論が進められています。その後、東日本大震災が発生した2011年以降は、首都直下型地震が起きて羽田・成田が使用できなくなった場合の第三の首都圏空港として、静岡空港の存在意義を県が力説。「防災上、空港新駅が必要」と国やJR東海に訴えかけました。また、県独自で2014〜19年度に計4,750万円を費やして調査を実施し、県の技術検討委員会は、空港直下に新駅を設置することは技術的にも可能と結論づけています。2016年には、建設事業費は400億円超になると試算が公表され、現在の価格に換算すると700億円程度になるのではといわれています。
しばらく目立った進展がなかった空港新駅構想ですが、2022年に山梨県知事から、リニアが実現できた後の高速交通ネットワーク網の一環として、新駅実現に向け「リニア中央新幹線建設促進期成同盟会」として研究してみてはどうかと提案があり、再び脚光を浴びるようになりました。鈴木知事就任後、これまで新駅設置に難色を示してきたJR東海が「考えを受け止めながら対話する」と微妙な発言に転じたため、にわかに空港新駅がクローズアップされましたが、知事は冷静に「空港新駅は長期的な課題」と受け止めておられます。
■空港新駅建設のさまざまな課題
では、何が課題で新駅設置の話は進まないのでしょうか。まず、空港新駅の建設費を誰が主体となって、どのように工面するかです。全国の新幹線新駅は「請願駅」が基本で、県や周辺市町が新駅設置を請願し、費用もほぼ全額県や周辺市町が負担します。国やJRに全額負担してもらえばよいと考えるかもしれませんが、全額拠出してもらうには、それなりの根拠と交渉が必要です。どのような目的のために、誰が主体となって財源を確保するのか、空港新駅ができることでこの圏域にどんなメリットがあるのかなど、地に足の着いた議論はまだ始まっていません。
また、空港の搭乗者数や周辺人口が少なく、新駅の十分な利用客が見込めないことも課題です。静岡空港は、コロナ禍前のピーク時で1日2,000人程度の搭乗客数でした。仮に搭乗客数が年間100万人を達成し、全員が新幹線を利用したとしても1日当たりでは2,700人。空港新駅を利用する地元住民を考慮しても、新幹線掛川駅の1日平均利用客数約8,000人に及ばず、新駅の採算ラインも見極めなければなりません。
■現実的な視点から課題を考える
それならば、空港利用者を増やせばよいと考える方もおられるでしょう。現在、ソウルや上海など、国際線の定期便が就航していますが、大型機の就航や遠距離からの国際便を増便できれば、さらにインバウンドのお客様を増やすことは可能です。しかし、そのためには現在の滑走路を延長する必要が生じます。さらに、地元空港対策協議会との協定では、航空機の離発着時間を午前7時30分から午後10時と定めていますから、就航便が増えれば、離発着時間の延長などについて同協議会との協議も必要になってきます。他にも、空港新駅と掛川駅が15kmしか離れていないため、新幹線の輸送スピードが落ちて利便性を損なうとの指摘や、空港直下型駅を造るには、高尾第一トンネルを抜けた初倉側にも引込線の用地が必要になることなど、いくつもの課題があります。
現在出ている空港新駅構想が、リニア中央新幹線工事の環境問題解決の交渉材料として議論されるのではなく、観光振興・防災・地域づくり・空港新駅ができることの経済効果など、多様な視点から議論が進むよう願っています。
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