私は農業高校の教員を経て47歳のときに有機農業を始めました。有機農業に関心を持ったのは、小笠高校の「エコロジー」という環境問題を学ぶ授業の生徒たちの反応が高かったことにあります。宿題で出すレポートを毎回しっかり提出し、中には図書館で調べたり、家で会話した親の意見を書いてくる生徒たちもいてびっくりしたものでした。
■温室の中で感じた沈黙の春
エコロジーの授業でレイチェル・カーソンが書いた『沈黙の春』を取り上げました。農薬には残留性があり、雨で流れた湖のプランクトンはやがていなくなります。食物連鎖で魚がいなくなり、動物もいなくなります。魚がいない湖は透き通り、空から鳥や虫の声が聞こえてくることはありません。聞こえてくるのは風の音だけ、そんな沈黙の春がやってきます。そんな内容です。
当時、私はコンピュータによる環境制御ができる温室で、花と野菜を育てる授業も担当していました。ガラス越しに見える空、足元はコンクリート、鳥や虫はいない、聞こえてくるのは水耕栽培のためのモーターの音、「あれっ、これって〝沈黙の春〞なんだ」と思いました。溶液タンク内の排水管に付いたコバルトブルーの肥料の結晶があまりにきれいで、魚がいない湖を連想しました。
有機農業は空が大きく鳥の声が一日中聞こえます。野菜たちは生物多様性の中で育ちます。この空気と水と土から育ったものだけを食べていたら、体の中と外が同じになるのかなあ、そんなことを考えます。有機野菜に求められているのは、今はまだ、安全や栄養や美味しさですが、エコロジーの授業を受けていた生徒たちを思うとき、「私は環境を守るために有機野菜を食べます。」そんな時代がやってくると思います。
(しあわせ野菜畑代表 大角昌巳)
問合せ:オーガニックビレッジ推進協議会事務局
【電話】21-1216
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