■ケース2 ささらぎさん(仮名)の話
◯「この17年が必要だったかは分からない。でも、必要だったと言えるよう生きたい」
《必死に通い続けた小中高 生きる力が尽きた》
私は小学生のころから少し引っ込み思案な性格でした。通っていた小学校は荒れていて、いじめにあうこともあり、「学校に行きたくないなあ」と思う毎日でした。進んだ中学・高校も荒れていましたが、「登校拒否」と呼ばれるのが怖くて、卒業まで必死に通いました。
高校卒業後、予備校に通ってみたのですが、授業に出ても先生の話が全く頭に入ってこなかった。生きるエネルギーが尽きていたのだと思います。そして、そこから自分でも思いもよらぬ17年間にも及ぶ長いひきこもり生活が始まりました。
家ではインターネットを閲覧したり、自作パソコンや家具・アクセサリーなどを作製する生活。最初はそこまで深刻に考えていなかったのですが、同級生たちが就職して社会へ出る時期になると、自分だけが取り残されたような孤独感や絶望感に支配されました。「もう自分はダメかもしれない」。どん底の中で頭をよぎったのが「死」です。不謹慎かもしれませんが、自分にとってはこの事が人生を変える転機になりました。「死ぬのはいつでもできる。なら、もう少し生きてみよう」。ポジティブに捉えることで希望を持つことができ、心の支えになったのです。
《「誰もうまくいってないけど、みんな、うまくいっている」》
「何とかしなければ」と焦りながらも動けず、こもり続けていたある日、父親から県ひきこもり地域支援センター「アンダンテ」(広報紙5p参照)を勧められました。親身に励ましてくれたカウンセラーの方が、私が独学でプログラミングを学んでいたことを知り、あるプログラミングスクールを教えてくれました。
思い切ってスクールに行って驚いたのが、そこにはひきこもりの人だけでなく、パワハラを受けて退職した人や難病の人など、様々な事情を抱えた人がいたことです。あるスタッフの言葉が心に残っています。「誰もうまくいっていません。でも、みんなうまくいっています」。みんな懸命に生きていて、ここでの温かな交流が社会復帰への大きな励みになりました。
その後、就職活動を経て今の会社に就職し、社会復帰を果たすことができました。現在は働きながら、ひきこもりサポーターとして、当事者や家族との交流、講演会、ラジオ出演などを通して、自分の体験談を伝えています。
この17年間が自分にとって必要な時間だったか今は分かりません。でも、私の体験が、心が疲弊してつらい思いをしている他の誰かに役立つかもしれない。この17年間が必要だったと言えるよう、これからの人生を歩んでいきたいですね。多くの人と関わっていきたいし、何より心配を掛けた両親に親孝行をしたいと思います。
■本人に寄り添い、安心できる場所づくりを
◎県精神保健福祉センター所長
県ひきこもり地域支援センター長
水永 淳(みずながあつし)さん
ひきこもりについて、私たちはどう捉え、どう対応すればよいのか―。
ひきこもり支援に携わっている水永所長に話を聞きました。
「ひきこもる」ことについて、「怠け」「意志が弱い」などと言われることがありますが、そうではありません。真面目で頑張り過ぎたり、内向的で不満を表に出せない人などが、誰かに助けを求められず、限界を迎えてひきこもるのです。ただ、大きなストレスを抱えれば、誰しもそうなる可能性があります。
◯―原因は本人も気づかないことも
ひきこもる原因は、学校での人間関係や職場のハラスメント、家庭内の環境、精神疾患など人によってさまざまです。それらの問題が重なったりしながら、大きなストレスとなって本人にのしかかり、心も身体(からだ)も疲弊して、充電が切れてしまう。原因は本人が自覚していたり、周囲が察する場合もあれば、問題が複雑であるがゆえに、本人も気づかない場合があります。
◯―本人がリラックスできる環境づくりを
意見やアドバイスを言うのではなく、話をしっかり聴き、本人の思いや状況を理解することが重要です。身近な家族が理解者となり、家庭内を心身ともに安心でリラックスできる場所にすることが本人の安心感となり、やがてエネルギーの回復へとつながっていきます。
◯―焦らず、本人に寄り添う
家庭内が安定すると、「ずっと家から出ないのでは」と思うかもしれませんが、居心地が良くなることで、本人に考える機会が生まれます。焦らず、本人に寄り添い、また家族も自分の生活を大事にしながら支え続けることが大切です。
◯―社会とのつながりを絶たない
ひきこもると、本人はもちろん、その家族も社会とのつながりが薄れがちになり、社会復帰にさらに時間が掛かることがあります。県内には、県ひきこもり地域支援センター「アンダンテ」(下段参照)をはじめ、たくさんの相談窓口(広報紙6p参照)があります。一人で悩まず、気軽に電話してほしいと思います。
◆ひきこもりに関する総合的な相談窓口 県ひきこもり地域支援センタ― アンダンテ
ひきこもりに悩む人や家族からの相談をお聞きしています。ぜひ、お気軽にご相談ください。
支援内容:
・個別面接、カウンセリング(予約制)
・電話、メール相談
・ひきこもり当事者の集団活動(月2回、要事前面談)
・親のグループ活動(月1回、要事前面談)
受付日時:月~金曜日 午前8時30分~午後5時15分(祝休日・年末年始を除く)
【住所】高松市松島町一丁目17-28(県精神保健福祉センター内)
【電話】087-804-5115
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