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自治体の皆さまへ

十月号 本の紹介

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高知県仁淀川町

地域おこし協力隊 エルドリッヂ愛未

■人間失格 太宰 治
太宰治の代表作であり、彼の魂の深層に迫る傑作、「人間失格」。まるで、彼の死までが一つの芸術のように、この作品は自ら命を断つ前に最後に執筆したものである。自伝小説とも称されるこの作品は太宰が歩んだ複雑な人生と重なっていて、自己嫌悪や孤独、社会との葛藤をテーマに彼が抱えた心の闇や苦悩が深く赤裸々に描かれている。
主人公の葉蔵は政治家の息子として生まれ、青森の田舎で育った。優れた地頭と容姿を持ちながらも、幼少期から道化を演じ、笑いを通じて周囲との関係を築くことで、誰にも打ち明けることができない悲しみを秘めていた。世間は彼を陽気者だと思っていたが、その笑顔は彼の悲惨な家庭環境や内なる葛藤を隠蔽(いんぺい)するための仮面であり、彼自身の心の闇と向き合うことを避ける手段でもあった。ところが、逃げて、逃げて、逃げまくった結果、取り返しのつかないことになってしまったのだ。
題名は「人間失格」だが、これほど人間臭い人はいないだろうと思った。彼の人間性には疑問を持つ人が多いと思われるが、主人公が醜い部分をさらけ出すことで、自分の醜い部分を思い知らされる。
当時でも世間を騒がせたみたいだが、日本文学の中でも特に影響力を持つ作品の一つとなり、日本人なら避けては通れない大名作となった。私もとんでもない影響を受けた。なぜか、この本だけは初めて読んだ時の衝撃がまだ新鮮で、日本文学では一番大切にしている本だ。こんなに短い本で、こんなに迫力がある本にはまだ出会ったことがない。
私は20歳の時に初めて読んだが、もっと早く読めばよかったと思う。まさに反面教師の聖書(バイブル)で、読む年齢や心情で、さまざまな学びがありすごみを増していく。自分自身が「人間失格」と感じたときに手に取りたくなる一方、文章の深みに恐怖心を感じ、再読することを避けたくなることもあるが、私はこの本を何回読むのだろうか。ずっと私の心に残っているこの作品を皆さまにも深く楽しんでもらいたい。

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