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十二月号 本の紹介

20/28

高知県仁淀川町

地域おこし協力隊 エルドリッヂ愛未

■午後の曳航 三島由紀夫
今回は日本を代表する世界的な作家・三島由紀夫の『午後の曳航』を紹介する。1962年に発表され、日本ではそこまで有名な作品ではないが、ノーベル文学賞の候補作でもあった。
この物語は戦後間もない横浜の港町が舞台となっている。亡夫から継いだ輸入雑貨屋を経営する房子は海に憧れを持つ13歳の息子、登と二人で裕福な生活を送っていた。そこに突然航海士の竜二が現れ、徐々に房子との関係が深まり、ついに結婚の約束を告げるのであった。
中学2年生という繊細な時期に(悪)友の価値観や思想に影響されながら生きてゆく中、竜二に強い憧れを持っていた登は、彼が海を捨て、父親になることが航海士の理想崩壊であった。社会秩序を保つため、少年仲間と一緒にこの裏切りに罰を与えることを決意するお話だ。
文体から感じるのは美しさとは全くかけ離れた怒りと憎しみや人生のすべてを包み込むような海の描写に感動を通り越した空白を感じた。彼は日本人にしか書けない文章で、抜け出せない余韻を残す。この本を読んで日本語の美しさを体現したような文を描く作家であることに気づけただけでも私の財産だ。
この作品を通して、織り交ざった恋愛と反抗のテーマが女と男、大人と子ども、陸と海という対比ににじみ出ていた。溺れるほどに深いテーマを掘っているこの作品は一読では飲み込めないが、三島由紀夫を読み始めたい方にはおすすめする。

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