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七月号 本の紹介

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高知県仁淀川町

地域おこし協力隊 エルドリッヂ愛未

■ムーミン谷の彗星
ヤンソン
昨年、友人にムーミン谷のシリーズを薦められた。私はムーミンのキャラクターは知っていたが、親の世代の北欧アニメと思っていて、基が小説とは思っていなかった。ヤンソンは女性作家で、1948年に出版されていたにもかかわらず、物語がキャラクターとともに世界中でまだ生きているのが不思議に思い、気になっていた。子どもが好きそうな、ほのぼのした本が読みたくて、まず第一巻「ムーミン谷の彗星」を手に取った。
ところが、冒頭からスリルのある内容だった。突然、いつも平和なムーミン谷に異変が起こり始め、彗星が接近しているという噂が流れる。恐怖と不安にのまれ何もできなくなったムーミンとスニフに、その真実を確かめるため「おさびし山」にある天文台へ旅に出なさいと両親に送り出される。途中でスナフキンとの出会い、絆と正義をテーマとした冒険物語が始まる。
見た目は人間離れしていても、出てくる登場人物は図太くて、好き勝手で、人間的だ。さまざまな人間模様があり、人間(関係)だけを見るのも面白い。初めから印象深かったのはスニフ。小さいくせに偉そうで、傷つきやすいのに意地悪で、他責的でイライラするような存在だ。それでもムーミントロールやスナフキンは見捨てず、失礼な態度を受け止める。大人な二人だ。特に気に入ったのはムーミン界では、大人も子どもも互いに尊重し、同じ目線で話すところだ。
時代を考えると作者は戦争に対する思いも潜めていると思う。『ムーミン谷の彗星』は彗星という大きな試練に立ち向かう姿を描いた物語だが、戦争の背景を考えて読むと重みのある文章や行動が多い。
メッセージ性や文体の優しさは「星の王子さま」に似ているところが多々あった。どちらとも、本当に大切なものについて、考えさせられる。この本で特にひかれた文章がこれだ。
「そうだな。なんでも自分のものにして、もってかえろうとすると、むずかしいものなんだよ。ぼくは、見るだけにしてるんだ。そして、立ち去る時には、それを頭の中へしまっておくのさ。ぼくはそれで、かばんをもち歩くよりも、ずっとたのしいね。」
今まで想像していたムーミンの世界とは逆で、大人だから楽しめる作品と改めて思った。

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