専門は地域福祉論、社会福祉政策。中山間地域における地域福祉のあり方や住民と専門職の連携・協働による地域包括ケアシステム・地域共生社会の構築を中心的なテーマとして研究・実践に取り組むほか、自治体等の地域福祉関連計画の策定・推進をサポートしている。
鳥取大学 地域学部 竹川俊夫 教授
計画の策定に委員として携わった、竹川教授。専門家の視点から、南部町が進むべき地域福祉の未来と計画の推進についてお話を伺いました。
■地域社会を取り巻く現状
日本は急速に高齢化が進み、特に中山間地域では大きく人口が減少しています。地域ではコミュニティの力が衰え、家庭では介護、子育て、孤立、貧困など様々な問題が複雑化しています。生活基盤が脆くなり、人々が支え合う力が弱まっているといえます。一方で、それらの問題は自己責任だという社会の風潮もあります。だからこそ、今コミュニティや人々の暮らしの再生に取り組まなければ、持続可能な暮らし・地域は作ることができなくなるのではないかという問題意識を持っています。
■計画は何のために
90年代以降、日本の地方分権化が進み、福祉行政の主体は市町村となりました。しかし住民が抱える幅広い生活課題を、行政がすべて対応して解決することは到底できません。住みなれた地域社会の中で暮らしながら、課題と向き合っていく時代を迎えています。
住民は自らが福祉の取組に参画し安心安全な暮らしを可能な範囲で作り(自助・互助・共助)、行政が公的責任として在宅で暮らし続けられる仕組みや様々なケアの仕組みを作る(公助)。それぞれがうまく合わさってこそ、多様な生活課題に対応できる安心安全な暮らしを得ることができます。計画は地域が連携していくための仕組みづくりに必要なものといえます。
さらに、特に中山間地域においては、地域そのものの持続性が非常に危ぶまれています。住みなれた地域での暮らしを持続させるには、地域そのものが持続可能なものでなければなりません。福祉というと介護や子育て等、ケアの問題が中心と思われがちですが、地域そのものを持続可能にしていく可能性を高めることも計画の中の大きな課題なのです。
■地域福祉の視点で見る南部町
南部町は、計画策定以前にも、コミュニティホーム「西町の郷」の開設や、講演会など10年以上の関りがあります。その中で、住民主体のまちづくりの文化が根付いていると感じていました。しかし地域によっては、課題はどんどん増えていても住民主体で解決できていないところもあり、行政も同様でした。住民自治の良い文化を町内に広げることが大きな課題という印象を持ちました。
計画の策定に関わり、持続可能な地域福祉活動をどう作っていくか検討する中で、私は地域の財産として「地域振興協議会」を強く意識しました。地域振興協議会の福祉機能を強化することで、福祉をはじめ様々な地域課題に対応でき、かつ地域を持続可能なものにできるでしょう。地域の要として、行政や社会福祉協議会と連携し、集落を支えながら福祉課題に取り組むという計画の基本フレームは、取組を進める中で徐々に浸透していると感じます。
■地域福祉を〝我が事〞に
自分自身のこれからの暮らしや、子や孫世代の暮らしを考えて、「今私たちがどう動かないといけないのか」を考えることが地域福祉であり、その方向性を示しているのが計画です。自分たちでできる取組を進めるなかで生まれた成功例は、積み重ねれば地域の誇りになるでしょう。地域に暮らし続ける理由の一つを地域福祉の力で創り出すことができれば、南部町は持続可能な素晴らしい町になっていくと思います。
福祉は特定の方の課題ではなく誰にでも共通するものです。一人ひとりが〝我が事〞としてとらえ、少しずつでも協力し合って地域を変えていくことは、自分たちの暮らしを良くしていくことにつながるのです。
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