■ヒシクイ
○9年前に初めまして!
2016年1月20日のこと。外から戻った夫が開口一番でこう言いました。「ヒシクイが出たぞ!」。折々に様子を見に行っているカントリーエレベーター付近の田園地帯には、毎年100羽ほどのコハクチョウが採食のために飛来します。その中に、稀にコハクチョウ以外の大型カモ類がしれっと混じっていることがあるのです。この日も、群れを注意深く観察していたら、日没後間もない薄暗く雪の残る田んぼで、茶色い大きな鳥が2羽見つかったのです。これが、我が家にとって南部町ヒシクイの初記録となりました。もしかしたら他の文献や資料に載っている可能性もありますが、日本野鳥の会鳥取県支部の会報などにも報告がないようで、証拠写真が残る貴重な記録を取ることができました。
○20年でたった2回!
それからしばらくヒシクイの姿を見つけられませんでした。ところが文字通り忘れた頃に彼らはやって来たのです。2023年11月14日の午後、三崎地区にてさりげなくコハクチョウに混じっている3羽のヒシクイを確認しました。天然記念物様の再訪問です。南部町の生き物の記録を残し始めたのが2003年くらいからなので、20年で2回、まさに10年に1度の出会い。町内には特別天然記念物のコウノトリとオオサンショウウオが暮らしていますが、実は「特別」がつかない方の国指定天然記念物の鳥は今回のヒシクイが初めての種類です。
○亜種の謎
ヒシクイは5亜種いるとされています。山陰は亜種ヒシクイと亜種オオヒシクイが飛来するとのことですが、中間型もあり何度図鑑を見てもどちらかよく分かりません。長年ガンカモ類を調査している夫も「はっきりと区別するのは難しい」と画像を見ながら諦め気味で呟きました。他にもこれまで、南部町のコハクチョウの群れには、ハクガンやオオハクチョウも混じっていたことがあります。今後、マガンやサカツラガンなどが来る可能性もゼロではありません。「ウォーリーをさがせ!」ではありませんが、寒い季節の南部町のお宝探しとして、脅かさないようにそっと白鳥たちを眺めると何か大発見があるかもしれませんよ。
自然観察指導員 桐原真希
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