豊かな自然に囲まれた南部町。ここに暮らす私たちにとって、里山の風景は当たり前の日常です。平成27年には、環境省の「生物多様性保全上重要な里地里山」に町内の里地里山全てが指定されました。この豊かな里山は、先人から農地や山林を守り、受け継いで暮らしを営んできたことの表れでもあります。
しかし、高齢化や人口減少によって、この風景を守り続けることが難しくなりつつあります。こうした地域課題の解決につなげようと、プロジェクトが立ち上がりました。
今月は、都市部企業とのコラボレーションによる農地利用の新たな試み、「ローゼルプロジェクト」をご紹介します。私たちが暮らす里山の将来について考えてみませんか?
○ローゼルとは?
ローゼルは、世界各地の熱帯地方に分布する植物です。ハイビスカスに似た白い花と鮮やかな赤い果実をつけます。萼(がく)、茎(くき)、葉などが食され、ハーブティーの原料として好まれています。栄養価が高く美容と健康に良いと、全国でも栽培が広がりつつあります。
■失われていく農地
「誰かに作ってもらいたい。」「農地を売りたい。」
南部町の豊かな里地里山の象徴でもある水田や畑。しかし今、担い手の高齢化や後継者がいない農地について、特に中山間地ではこうした声を聞くことがあります。
耕作をする人がいなくなると、農地が荒れ維持できなくなります。土地が荒れ住みにくくなった環境は、人口減少にもつながり、集落機能が維持できなくなる可能性も高まります。農業が主要産業である南部町にとって、農地の減少は町の活力の低下に直結する大きな課題です。
■粗放的利用の試み
農地が失われていくことを少しでも防ぐための手段として、南部町農業委員会は農地の「粗放的利用」に着目しました。粗放的利用とは、農作業に負担の少ない農作物を栽培することで、労力やコストをかけずに重要な地域資源である農地利用を継続させる取り組みです。
粗放的利用の栽培作物として今年度、農業委員と農地利用最適化推進委員(以下、「推進委員」)など約10名がローゼルの試験栽培を行いました。自身の農地でローゼルを育てていた推進委員の松本美樹さんからの発案で、「栽培に労力がかからず、色合いがよくめずらしい」ことが決め手でした。
町内各所の農地で140本栽培したところ、酷暑の中で水やりをしなくてもすくすく育ち、秋には約9kgのローゼルが収穫できました。
■都市部企業とのつながり
コロナ禍で普及したテレワークを活用し、南部町の里地里山の中で働く魅力を感じてもらおうと、都市部の人材を招きモニターツアーを行ってきました。収穫したローゼルの活用については、令和5年のツアーに参加した株式会社DDグループ(東京都)と協議を進めてきました。外食事業を手がける子会社の株式会社ダイヤモンドダイニングとの連携により、ローゼルを活用したメニューを開発・展開することで、認知度が低く販路のない南部町産ローゼルを広めるべく、地域課題解決型コラボレーション「ローゼルプロジェクト」が立ち上がりました。
■メニュー開発
昨年10月、株式会社ダイヤモンドダイニングの方々が来町し、ローゼルの収穫と合わせて試作メニューの意見交換を行いました。ここでは、花手毬寿司・花水晶ようかん・グラスショートケーキの3品が完成。色鮮やかな色彩とさっぱりとした味わいに、メニュー化への期待が高まりました。
◆~メニュー開発の裏話~
○試作メニュー3品
試作メニューは生のローゼルを使ったレシピです。生の状態だとより一層ローゼルの形や色味を活かすことができるので、店舗のコンセプトである、大切な人への「おもてなし」料理にマッチする、華やかな料理となっています。
○コラボレーションメニュー
まずは「ローゼル」を知っていただくため、商品に興味を持っていただける魅力ある見た目でありながらローゼルだと分かるようにすること、ローゼルの持つ鮮やかな色味と酸味を活かすことにこだわって開発されました。
→試作メニューはレシピブックとして配布されています!
■動き出したプロジェクト
その後もメニュー化が進められ、今年2月に大阪市中心部の店舗「chano-ma茶屋町」でコラボメニューの提供が決まりました。
”里山の未来をつなぐ”をコンセプトに、期間限定メニューとして「ローゼルとブリュレの苺クロワッサンドーナツ」と「ローゼルとりんごのスカッシュ」の2品が提供されました。
○~Re:にまつわるストーリー~
“里山の未来をつなぐ”取り組みを多くの方に知っていただくため、コラボレーションの背景をストーリーでご紹介しています。
南部町のローゼルを食べられた方が、大阪から遠く離れた南部町の自然、そして農業に想いを馳せていただける内容です。
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