■ミツマタ
○まるで真昼の姫蛍
桜が咲く前の3月中旬を目指して訪ねたい場所があります。広報なんぶ2020年5月号で紹介しました「カツラの巨木群」がある谷です。カツラはまだ落葉したままですが、その周りに黄色く咲き乱れるミツマタの群生地があるのです。谷筋に根を下ろす樹齢数百年のカツラを取り囲むように、斜面いっぱいにミツマタが自生しています。尾根に近い山肌には植栽されたスギやヒノキの針葉樹も大きく育ち、その濃い緑の葉を背に明るく丸く咲く大量の集合花は、まるで昼間飛び交うヒメボタルのようです。開花期間は2〜3週間ほど。ファンタジーのような空間は時間を忘れてしまいます。
○実は外来種
ミツマタは室町時代に移入された外来種で、原産地は中国やヒマラヤ周辺とされています。国内では野生化したミツマタが各所で自生し、群生地では観光地となっている場所も複数あります。古くからお札や賞状などの高級紙は、ミツマタ・ガンピ・コウゾの和紙3大原料が利用されてきました。しかし、生産者の高齢化などにより国産が減少し、私たちが使う紙幣の原料の多くがネパールから輸入されたミツマタです。現地の方の生活を支える重要な産業にもなっています。
○藪をなんとかせんと
現在「カツラの巨木群」の谷は薮が発達し、ナタや剪定鋏を手に行く手を阻む枝葉を刈り進まないと、ミツマタの群生地に入ることができません。以前「南部町虹色マップ」という観光地図が作られ、そこにもカツラの谷が載っていますが、現地は看板などもなく、知っている人と一緒に行かないと辿り着けない場所となっています。車も多く停められないので、大人数の観光客のご案内には不向きですが、穴場スポットとして、かつての「たたら」の跡に育った幻想的な景観を、町の資源としてよき形で活用する道も、いつか具現化できればと思うところです。ただし、いずこもそうですが、人が入り過ぎると環境負荷が大きくなるので、何事も適度なバランスが大事ですね。
自然観察指導員 桐原真希
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