■高齢者の自殺の現状と特徴
厚生労働省の令和4年人口動態統計をみると、県内の自殺者は60歳以上の高齢者が47%を占めていて、県内の自殺者の2.1人に1人が高齢者となります。
高齢者の自殺の原因・動機としては「健康問題」が最も多く、それは身体の病気に関する悩みだけではなく、うつ病などの精神科の病気も少なくありません。加えて、近親者の死別などの喪失体験もあります。また、高齢者の自殺は同居人がいる場合のほうが多いことに注意が必要です。その背景には老老介護の問題や「家族に負担をかけている」「居場所がない」などの家庭問題、経済・生活問題があります。高齢者は縊首などの致死性の高い自殺の手段を選択する傾向があるため、未然に対応する必要があります。
■高齢者のうつ病・うつ状態
高齢者の自殺予防に、うつ病・うつ状態の早期発見・早期治療はとても大切です。しかし、高齢者のうつ病・うつ状態は気づかれにくいことが特徴です。それは、気分の落ち込みや悲哀感よりも不安や焦燥感、身体的不調の訴えが目立ち、一見するとうつ病・うつ状態のようにみえないことがあるからです。また、意欲や活動量が低下したり、やる気がなくなったり、物忘れを訴えることもあり、認知症と間違われることもあります。もし、いつもと違う様子や不眠(「寝つきが悪い」「何度も夜中に目が覚める」)が続く場合はうつ病・うつ状態を疑って早めに相談機関や医療機関につなぐことが大切です。
■自殺を防ぐために私たちができること
いつもと違う様子に気づいたら、勇気を出して声をかけてください。こちらから声をかけて初めて悩みを話すことは少なくありません。まずは相手の気持ちに寄り添ってじっくり聴くことがポイントです。
また、「つらい状況では死にたいと考える人もいますが、あなたは死にたい気持ちはありますか?」などと死にたい気持ちの有無を確認することが自殺の危険性を知るために必要です。尚、死にたい気持ちの有無を確認することで自殺の危険性が高まることはなく、むしろ誰にも話せない状況のほうが危険です。もし「死にたい」と打ち明けられたら、まずは自分自身の気持ちを落ち着かせることが必要です。感情的になって叱ったり、自殺の是非を言い争ったり、安易に励ましたり、話をそらしたりせず、死にたいほどつらい状況に耐えてきたことを労い、勇気を出して「死にたい」と打ち明けたことに感謝を伝えてください。そのとき、「他の人には秘密にして」と言われても約束せず、相手を心配していること、死にたいほどつらい状況をみんなで解決する方法を考えたいことを伝え、自分ひとりだけで抱え込まず、家族や相談機関・医療機関の専門職と共に対応を考えるようにしてください。もし、自殺の危険性が高いと思ったら、ひとりにせず安全を確保し、周囲の人と協力して対応してください。各機関につないだ後も本人を温かく見守り、孤独感を軽減する働きかけが自殺予防に有効です。
最後になりますが、私たち一人ひとりが自殺を防ぐためにできることを行い、誰も自殺に追い込まれることのない社会が実現することを願っています。
精神保健指定医 現鹿児島県精神保健福祉センター所長
春日井基文(かすがいもとふみ)
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