「縁ひろがれプロジェクト」は、令和5年6月から始まった、地域で一日でも長く暮らし続けられる仕組みを考える、行政と自治会の話し合いの場です。
本プロジェクトの報告会も行われた、令和5年12月10日のセミナーの様子をご紹介します。
■第一部 特別講演
家庭裁判所調査官が伝える「心のゆたかさとは」
家庭裁判所調査官:岩戸悠香氏
「本当に困っている人は困った顔をしていません。周囲から見て『困った人』が、その内心で『困っている人』なんです。」兵庫県尼崎市で家庭裁判所調査官を務める岩戸悠香さんは、真剣な表情で語ります。
家庭裁判所は、家族間のトラブルや青少年の非行に対する処遇を決定する機関です。その特徴は、法律だけでは判断できないような「家族の背後にある事情」まで扱わなければいけないこと。だからこそ、調査官は、人に寄り添うための専門的な技術や知見をフル活用します。
「その人が抱える課題に本当に寄り添うには、まずは事情を客観的に分析することが大事です。身体的・社会的・心理的な課題…。それらに寄り添うことで、やっと問題解決について話し合う糸口が見えてくるんです。」と岩戸さんは話します。福祉の根本にある「人に向き合う」ための技術を、これまでにない角度から体験できる講演でした。
■第二部 パネルディスカッション
縁ひろがれプロジェクト中間活動報告
▽パネリスト
鹿児島国際大学 福祉社会学部 社会福祉学科 教授:高橋信行氏
栗之脇自治会 自治会長:田淵悦二氏
辺塚東自治会 自治会長:湊原幸二氏
南大隅町地域包括支援センター次長:畦地里美氏
南大隅町社会福祉協議会 生活支援コーディネーター:大竹野佑介氏
「コロナによるインパクトは、私の想像以上のものでした。令和3年度の介護保険の申請数が前年の倍になったんです。地域内での交流機会の減少は、高齢者の認知機能を低下させ、運動のきっかけを奪い、不安を増幅させます。それがこうした数値に表れているんです。」と、地域包括支援センターの畦地さんは企画成立の経緯を話します。
町内で取り組みを始めた二つの「モデル自治会」が、栗之脇自治会と辺塚東自治会です。栗之脇では「LINE活用」、辺塚東では「買い物支援」をテーマとして定め、月に一回自治会の方々を交えて打ち合わせを行ってきました。「田畑の相続、介護施設や病院への移動、日々の買い物…。生活上の不安について話し合うきっかけを持てたことで、地域の皆さんも語るのが楽しみになってきたようです。」と、辺塚東自治会長の湊原さんは話します。
二つのモデル自治会では、これからの取り組みのイメージも膨らませています。「大分県豊後大野市での先進地視察から、地域の方々に直接話を聞いて課題を明確化することの大事さを学びました。我々もまずは自治会内でアンケートを取ってみて、不安なポイントに向き合っていきたいと思います。」と、栗之脇自治会長の田淵さんは真剣な表情で語ります。
本プロジェクトのアドバイザーを務める鹿児島国際大学の高橋教授は、プロジェクトを総括してこう語りました。「高齢化が進みつつあるものの若手が多く力を借りやすい栗之脇と、高齢化率がほぼ100%で自分たちの力だけでは取り組みが難しい部分もある辺塚東。対照的な二つの自治会が、真剣に今後のあり方を模索しているのが印象的でした。時には『助けられ上手』になりながら積極的に他者からのサポートを求めることで、自立共生を目指して取り組みを続けられるといいですね。」
福祉のあり方を考えることは、自分たちなりの幸せな暮らしについて考えることです。他者に寄り添い、ともに課題を考えるための根本的な方法を学び、これからの南大隅町の暮らしをイメージする。ふくしのまちづくりセミナーは、そんな貴重な機会となりました。
(レポート:大杉祐輔)
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