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町誌編さん室の島のむんがたり

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鹿児島県徳之島町

■方言札(ほうげんふだ)と島口(しまぐち)の危機
今から約60年前、私がまだ中学生だった頃のこと。
校内にいる間は、方言を使った生徒は罰として「私は方言を使いました」と、赤い「方言札」を首からぶら下げられるのである。方言札を下げている生徒は、恥ずかしいので、次に方言を使った生徒を早く見つけて方言札を渡したい。そこでわざと「〇〇を方言で言うと何と言う?」と聞き、相手にうっかり方言をしゃべらせるというずるい方法で渡そうとする。敵もさるもの、「それは方言で言うと」と前置きすると罰にならないので、うまく切り抜けられるのである。当時は割とゲーム感覚で方言札のやり取りをしていたような気がする。
亀津のN大兄(昭和3年生)の体験談。小学4年生の時に、教室で友だちと方言で話しをしていたら、方言の取り締まりのために先輩が見廻ってきて見つかり、校庭に立たされたそうだ。(その頃方言札はなかったとのこと。)
「方言札」は、広くはヨーロッパ、我が国においては東北地方の一部や沖縄県・鹿児島県などで明治末から昭和30年代まで使用された記録がある。
そもそもは大和(ヤマトゥ)への同化政策の一環と考えられるが、懲罰的な標準語励行教育が行われた一面、人々が標準語の必要性に気づき始めたことなどの要因も複合して生まれた教育だとも言えるのではないだろうか。
特に沖縄県や奄美群島においては、都会への就職者が多く、標準語が自由に使えないハンディは大きかった。出身者たちが都会生活でのコミュニケーションをはかる上でさほど苦労しなくなったのは、方言札の効用も少なからずあったと思われる。
他方、島人(シマヌッチュ)の生活の中で、方言である島口でないと微妙な心情の表現ができないことも多々ある。それが島らしさ、島口の長所ではないだろうか。
消滅危機言語の島口(奄美語)を後世に継承するために様々な取り組みがなされているが、現在の共通語中心の生活で、高齢者のいない家庭では島口に接する機会など皆無に近い。島口が使える人たちがいる間に、何とか衆知を集めて継承できないものかと思うこの頃である。島口を消滅させないためにも、まずは、「オボラダレン(ありがとうございます)」「キュウガメーラ(こんにちは)」だけでも、私達の暮らしの中で使っていってはどうだろうか。
(町誌編さん室 岩下洋一)

問合せ:郷土資料館
【電話】0997-82-2908

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