■引き継ぐ心と生み出す思い
合資会社 伊達醸造
富澤 英里子さん(26)
神奈川県出身。趣味はスノーボード。夢はお笑い芸人・サンドウィッチマンとのコラボ。福山町在住。
生まれも育ちも大都会・横浜。6月まで東京でOLとして暮らしていた富澤英里子さん(26)は今、福山町の合資会社伊達醸造で跡取りとして生き生きと働いています。
伊達醸造は200年の歴史ある老舗の醸造会社。市の特産品の一つであるつぼ作り黒酢のほか、みそや酢、しょうゆを手掛けます。富澤さんの祖父が同社の先代、叔父が現在の社長を務め、伊達醸造の味が食卓にあるのは、ごく自然なことでした。「小学生の頃、夏休みになると祖父の家に遊びに来ていました。まさか自分が福山に住むことになるなんて」と富澤さんはおどけます。
転機が訪れたのは今年の3月。「経営難から伊達醸造を畳むかもしれないと母に聞いたことがきっかけでした。うれしそうに酢やしょうゆの話をしていた祖父。その思い出ごと無くなってしまう気がして、やり方を変えればきっとうまくいくはずと思い、自分に継がせてほしいと話をしました」
前職では企業広告やマーケティングを担当していた富澤さん。その視点と人脈を生かし、最初に取り組んだのがクラウドファンディングでした。「資金集めという面だけでなく、伊達醸造を知ってもらうことから始めなければと思い、募集後も取り組み内容がウェブ上に残るクラウドファンディングに手を付けました。知り合いに出資をお願いするのは気が引けましたが、とにかく自分ができることからやらなければという思いでした」。クラウドファンディングには目標を上回る122%という支援が集まりました。「支援のお礼として、壺つぼオーナー権や仕込みに参加できちゃう権というものも用意しました。商品の良さを知ってもらうだけでなく、自分のつぼを持てたり仕込みを体験したりすることで、伊達醸造のファンをつくりたいんです」と富澤さんは思いの一端を口にします。
広告塔として動き出した富澤さんは「実際に越して来たからこそ見えてきたものもたくさんあります。東京からリモートでの活動も考えましたが、鹿児島に来たからこそもっと小さなことから変えていかなければならないことに気づきました。毎日やることがいっぱいで、やりがいがあります」。
これまで先代たちが積み重ねてきたものを未来につなぎたい。その思いと合わせて、新たな挑戦にも抜かりはありません。「新潟の米農家さんとご縁があり、この秋に早速そのブランド米で黒酢を仕込みました。鹿児島という枠にとらわれず、オールジャパンで良い物が作れたら面白くなるはず」と話す富澤さんの目は、未来に向かってきらきらと輝いていました。
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