■山に導かれて
福永良よし子こさん(64)
霧島出身。山頂では絶景を眺めながら、食べた物をスマホで記録するのがルーティン。隼人町在住。
「私たちの活動が、自然を大切に思い、親しむきっかけになればうれしい」と話すのは、霧島錦江湾国立公園霧島地区でパークボランティアとして活動する福永良よし子こさん(64)です。環境省が設置する国立公園パークボランティアは、年間を通して美化清掃や観光客への自然解説、動植物の保全活動など、国立公園の管理と利用促進に関するさまざまな活動を行う団体です。
いわゆる普通の主婦だったと話す福永さんが登山を始めたのは、およそ10年前。仕事や家庭の事情などで無理が重なり体調を崩してしまいます。「頑張り過ぎだと医者に叱られました。息抜きで始めたテニスの仲間から登山に誘われ、初めて登ったのが高千穂峰。あまりにも素晴らしい景色に、新たな楽しみを覚えました」とほほ笑みます。山頂で湧き上がった感動を写真と共にSNSに投稿すると、「投稿を見たよと知人から連絡があり、登山サークルに誘われました。メンバーと九州の山々を巡っていると、そこで出会った人たちと次々に交流が生まれ、新たな仲間とまた登山に。山のおかげでいろいろな出会いにつながり、日本各地の山を巡りました。まるで山に導かれているかのようでしたね」と振り返ります。
転機が訪れたのは4年前。知人が運転する車で追突事故に遭い、腰を強く痛めた福永さんは数メートル歩くこともままならなくなりました。一進一退の病状が1年ほど続き、大好きな山にも登れないもどかしい日々を過ごすことに。「どうしても我慢できず、気付けば韓国(からくに)岳に向かっていました。以前と変わらない風景を眺めながら無理せず一歩一歩前に進んで行くと、山から活力をもらいました。つらい経験をしたからこそ歩ける喜びを強く実感し、感動とともに自然と涙があふれました」と山への感謝の気持ちを募らせます。そんな感情を抱いたまま下山し、登山口にある売店を訪れた際、ふと目に止まったのがパークボランティア募集のチラシ。「山に恩返しをするならこれだと直感的に感じ、すぐに電話しました。快く受け入れてもらえたのですが、実は募集期限は過ぎていたんですよ」とはにかみます。
「〝頑張らない、無理をしない、けれども力の出し惜しみはしない〟という言葉は私の座右の銘。20年ほど前に偶然出会ったその言葉に、肩の力を抜いて生きても良いんだと気付かされました」と話す福永さんは、国立公園指定から90周年を迎える世界に誇る霧島の自然を未来につなぐため、これからも無理せず、頑張らず、自然体でボランティアを続けます。
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