■本格焼酎ができるまで
「代々伝わる酒造りをご紹介します」
(有)中村酒造場杜氏(とうじ)
中村慎弥さん(39)
焼酎には甲種と乙種があり、単式蒸留器で造られる乙種が本格焼酎と呼ばれています。
創業130年を超える国分の中村酒造場で、本格焼酎の造り方を紹介してもらいました。
(1)こうじ造り
原料であるコメを蒸してこうじ菌をまぶし、繁殖させる。
(2)一次仕込み
こうじと水、酵母を混ぜ合わせて発酵させ、一次もろみを造る。
(3)二次仕込み
主原料となる蒸し芋と一次もろみを混ぜ合わせてさらに発酵させる。
(4)単式蒸留
発酵したもろみを熱し、アルコール分を含んだ蒸気を冷やして液体に戻す。一度だけ行うことで、微量の香気成分や脂質などが抽出された個性豊かな焼酎ができる。
(5)貯蔵・熟成
出来たての原酒を熟成させることで、雑味を除き酒質を安定させる。
(6)調合・割り水
熟成を終えた原酒はタンクごとに個性があるため、調合して品質を調整する。
(7)完成
[INTERVIEW]人の手でつながれる伝統
有島恵美(えみ)さん(41)・翠(みどり)さん(12)
鹿児島の酒といえば焼酎と思ってはいましたが、今回の蔵見学で改めてその奥深さを知りました。もっと機械化が進んでいるのかと思っていましたが、五感を磨いて人の手で造ることにこだわり、職人としてのプライドや焼酎造りに懸ける思いに、親子ともども心をわしづかみにされました。地域の愛飲者や焼酎造りに欠かせない農家との共存まで考えた姿勢が、これからも焼酎文化や酒造りをつないでいくのだと感じました。
■革新の先にある伝統
近年注目を集める「香り系」焼酎。研究が進み、香り成分の正体が次々と解明されています。「テルペン類という香り成分を分析・数値化する技術は、当センターの技術支援の中で開発されたものです」と話すのは、隼人町にある県工業技術センター食品・化学部の大谷武人さん(37)です。
企業の技術のよりどころとして技術支援や研究開発を行う同センターでは平成5年ごろに、都会で焼酎が売れないのは芋臭さが原因ではないかと推測。研究が功を奏し、焼酎の華やかな香りを生み出す新たな酵母(鹿児島香り酵母1号)を開発しました。平成30年、この酵母を使用した国分酒造の焼酎が新たな消費者層の注目を集めます。「ニーズの変化や杜氏(とうじ)の努力などもあり、開発から再度注目されるまで約25年。芋焼酎の品質の幅も広がったのでは」と笑顔を見せます。
鹿児島県の一大産業である焼酎産業。「サツマイモ基腐(もとぐされ)病や後継者問題などさまざまな課題がある中、伝統的酒造りはその土地の風土や時代の流れに適応するための進化を繰り返し、現在まで受け継がれてきたはずです。私たちの技術支援が、さらなる発展の手助けになればうれしい」と目を輝かせる大谷さんは、焼酎造りを伝統と革新の二刀流で後押しします。
◇今回の特集は、伝統的酒造りについて紹介しました。県内にある110を超える蔵元のうち、八つが霧島市にあります。それぞれの蔵が代々継承してきた酒造りの知識や技術にこそ価値があり、その地域の暮らしの一部として味とともに伝承されてきました。
焼酎文化を世界に広め、後世につないでいくには、まずは同じまちに住む私たちがその価値を知り、広めることが大切です。こだわりの詰まった焼酎ほど、贈答品としても喜ばれます。お世話になったあの人に、まずは一本、贈ってみませんか。
県工業技術センター食品・化学部
主任研究員
大谷武人さん(37)
■県本格焼酎技術研究会記念講演「焼酎文化を、世界に、そして未来へ」
県工業技術センターが事務局を務める県本格焼酎技術研究会は今年、設立35周年を記念した講演会を開催します。一般参加もできますので、ぜひご参加ください。(入場無料)
日時:3月8日(土)午後1時~5時
場所:Li–Ki(ライカ)1920(イチキューニーマル)(鹿児島市中央町19-20)
講師:田崎真也さん、宮下純一さん
■こんなにある!市内の焼酎蔵
(1)国分酒造(株)
国分川原1750
・創業=昭和45年
・蔵見学=不可
・代表銘柄=さつま国分
問合せ:【電話】47-2361
(2)(有)中村酒造場
国分湊915
・創業=明治21年
・蔵見学=無料、要予約
・代表銘柄=なかむら
問合せ:【電話】45-0214
(3)日當山(ひなたやま)醸造(株)
隼人町西光寺649
・創業=大正9年
・蔵見学=無料、要予約
・代表銘柄=アサヒ
問合せ:【電話】42-0315
(4)きりしま高原麦酒(びーる)(株)
溝辺町麓876-15
・創業=昭和29年
・蔵見学=無料、要予約
・代表銘柄=薩摩自顕(じげん)流
問合せ:【電話】58-2535
(5)アットスター(株)横川蒸留所
横川町上ノ3280-5
・創業=昭和24年
・◦蔵見学=無料、要予約
・代表銘柄=蘭
問合せ:【電話】64-6220
(6)佐藤酒造(有)
牧園町宿窪田2063
・創業=明治39年
・蔵見学=不可
・代表銘柄=さつま
問合せ:【電話】76-0018
(7)(有)万膳酒造
霧島永水4535
・創業=大正11年
・蔵見学=不可
・代表銘柄=萬膳
問合せ:【電話】57-2831
(8)(株)霧島町蒸留所
霧島田口564-1
・創業=明治44年
・蔵見学=無料、10人以上の団体は要予約
・代表銘柄=明るい農村
問合せ:【電話】57-0865
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