■『群・大白鳥』1980年小川原脩画
本作は横に2メートル近くある、大きな作品です。まるで実物大のような、12羽ほどの白鳥の群れが描かれています。さらに奥にもその集団は続いているようで、彼らは群れのごく一部なのかもしれません。長い首を伸ばしたり曲げたりして、優雅に羽根を広げているものもいます。白鳥たちの振る舞いから、旅の途中、いっときの休息地に降り立った直後の、高揚感と安堵(あんど)感が入り交じった光景のように感じられます。
赤い背景に包まれて、白い鳥たちの姿が際立ちます。一羽一羽の仕草、姿勢も変化に富み、群れは自由な雰囲気を醸し出しています。この作品について「白いマッス(塊)の中の流れる線の交錯でありたいと願った。柔軟なものの表現を求め始めたのかも知れない。ここでも『群れ』を」と小川原自身が述べています。1970年代の「個と群れ」の厳しい対比から、1980年代に向かって優しい群れへと移り変わっていくさまが現れています。
お気づきでしょうか、シルエットだけのキタキツネが背後に潜んでいます。平穏を破る兆しのようでもあり、北国の動物たちが繰り広げる物語を予感させます。これは小川原脩ならではの、北国の風景画とも言えるのではないでしょうか。
文:沼田絵美(小川原脩記念美術館副館長)
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