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自治体の皆さまへ

男女共同参画コラム

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北海道浦幌町

■連載150
仕事について考える
稚内大谷高等学校校長 平岡祥孝

とうとう今回で150回目を迎えました。100回目を迎えたときには、「よくここまで続いたなぁ」と、恥ずかしながら自分を誉めたような記憶が、かすかに残っています。ですが、今回はすでに前期高齢者の仲間入りをしていることもあって、「私の拙文が町民の皆さんのお役に立っているのかなぁ」と、省察と自省の意味を噛み締めながら筆を執った次第です。
この年齢ともなると、あらためてこれまでの職業人生を振り返り、自らの至らなさや未熟さに思いを馳せつつ、「人望とは何か」を再考するようになりました。今回は、あくまでも私の独断と偏見に基づいた「我が人望論」をお話させていただきたいと思います。
そもそも人望に基準などあるのでしょうか。歴史に名を残した偉人たちの逸話を読んだり、聞いたりすれば、人望は身に付くのでしょうか。あるいは、経営学の大家と呼ばれる方々の「リーダーシップ論」の数々の著作を熟読玩味したところで、果たして人望が身に付くのでしょうか。私は疑問です。むしろ「論語読みの論語知らず」になるのでは。
人望とは天賦の才能などではなく、言動や態度に細心の注意を払い、人には誠意と思いやりの心をもって丁寧に接していくならば、自然と備わってくる人間力だと、私は確信しています。もちろん人望が備わるためには、試行錯誤の長い道程を自分の歩幅で歩んでいくことが求められます。時間は掛かるでしょう。まさにそれは「愚直」という言葉がふさわしい行動とも言えましょう。ですが、「ローマは一日にしては成らず」ですよね。
意識して謙虚に学んでいく姿勢を取り続けるとともに、律儀さを忘れずに実践していくことを通して、人望は獲得できるでしょう。単に「いい人だなぁ」「素敵な方だね」「人気者だよ」との評判だけでは、人望には結びつきません。さらに私が強調したいことは、職位・職階と人望は比例しないことは自明の理だということ。逆に地位が上がれば上がるほど、人望がますます消え去っていく経営職・管理職を、私は少なからず見てきました。損得勘定や利害関係でのお付き合いは儚いもの。肩書きが取れれば、打算的な人は離れていくのではありませんか。やはり敬愛される人間的魅力で人は寄ってくる。これが本来の姿。
人望の有無が見て取れる典型的な事例は、人を動かすときに表れます。上司が業務命令や職務命令で人を動かすことは、あくまでも最終手段、伝家の宝刀です。この伝家の宝刀をやたら振り回していると、そのうち刃毀れしてくるのは必定。「やれ」「やるんだ」という命令口調ではなく、「やってみてはどうだろうか」という提案型口調、あるいは「やってもらえますか」という依頼型口調の方が、指示や命令の受け手からは好感を抱かれるでしょうね。ついつい『イソップ物語』に登場する「北風と太陽」のお話を思い出します。
上司は部下と、教員は生徒や学生と、それぞれ信頼関係を築いていく上では、人望を基盤とした対話が必要不可欠です。人工知能AIが普及し、高度先端技術を活用した社会変革の構想「Society5・0」が叫ばれる昨今は、逆に人間としての力量や手腕が問われる時代と言っても過言ではありません。己自身を棚に上げ敢えて言うならば、アナログの力とも言うべき人望を身に付けることは、人間社会を生きる技の一つを持つことになるのでは。

▽ひらおか・よしゆき
元札幌大谷大学社会学部教授。英国の酪農経営ならびに牛乳・乳製品の流通や消費を研究分野としている。高校生・大学生の就職支援やインターンシップ事業に携わってきた経験から、男女共同参画、ワーク・ライフ・バランス、仕事論、生涯教育などのテーマを中心に、講演やメディアでも活躍。

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