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【特集】虹の記憶 岩橋英遠・生誕一二〇年(1)

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北海道滝川市

■江部乙に生まれ画友と出会い
岩橋英遠(えいえん)(本名:英遠(ひでとお))は、滝川市江部乙町出身の日本画家。洋画の手法を取り入れつつ、独自の自然観照による幻想的で雄大な絵画世界を創造し晩年まで日本画壇の重鎮として活躍されました。
英遠は明治36(1903)年1月12日、滝川村江部乙の屯田兵の長男として生まれました。大正6(1917)年、北辰尋常高等小学校高等科卒業後は、家業の農業を手伝うかたわら、昼休みになると家に戻り、自画像を描くのが日課。また、隣家の一木万寿三(ますみ)(洋画家)とは、農作業の合間に果樹園の中をスケッチして歩き、お互いの家を頻繁に訪れては夜遅くまで絵について語り合いました。それほど絵を愛していた二人ですが、その頃は絵描きになろうとは考えていませんでした。

I アヴァンギャルド(前衛)の精神(こころ)
大正13年(1924)、21歳の英遠は日本画家を目指して上京し、山内多門塾に入塾します。そこで伝統的な日本画の基礎を学ぶ一方、新しい芸術運動に参加。また、英遠は欧米の新しい芸術の潮流を受け止めながら、日本画への新しい息吹の取り入れを模索します。
こうしてたどり着いたのが独自の自然描写でした。自然を美しいだけのものとして描くのではなく、不可解で奇妙な造形にも多大な関心を寄せていました。《懸帛(けんぱく)》や《木1》《木2》《木3》はシュルレアリスム(※)の影響もあり、新しい造形を目指した前衛的な試みが感じられます。自然を誠実に見つめることで、その中から独自に抽象的な画面構成を紡ぎ出し、従来の枠にとらわれない新しい日本画表現を模索したのです。
※シュルレアリスム:1924年にパリを拠点に始まった芸術運動

II 旅を記憶する、自然をみつめる
英遠は旅好きでした。日本国内はもちろん中国や中近東、アフリカ、欧州、南北アメリカなど世界中を手帳やスケッチ帳とともに旅し、その風景から得たインスピレーション等を丹念に記録しました。後年、英遠の画風が雄大なスケールへと変貌するのは、海外旅行で得たイメージの影響があると考えられます。
また、子どものころ、生家から見渡せる暑寒別岳を眺めて育った英遠は、生涯を通して全国各地の山々をいくつも描きました。自然にたたずむ山々を見つめることは、表現者としての英遠の大切なモチーフとなりました。
85歳のとき『富士を巡る~山と雲など展』(1988年)を開催するなど、晩年の英遠は多くの画家と同じく、富士山を描くことに集中します。各地を旅し、山の周囲を巡り、さまざまな地点から見た富士山を描き続けました。《氷結する湖》は、そのとき制作された作品の一つで北国に生まれた者の野性味ある独自の表現が感じられます。

III 北の風土を描く
《道産子追憶之巻(どさんこついおくのまき)》を描こうと思い立ったのは、東山魁夷(かいい)の《秋風行画巻(しゅうふうこうがかん)》を見たことが契機だといわれています。《道産子追憶之巻》が初公開されたのは、昭和53(1978)年、英遠の初回顧展のときでした。その後4年をかけて約4.7mが描き加えられ、全長29mを超す長さになりました。
英遠はこの作品についてこう語っています。「前略~この作品は私の思い出の中にある北海道の四季を描いている。現実の写生ではない。すべて頭の中の北海道の四季です。冬に始まり、短い夏をはさんで冬に終わる自然の移ろいを描いているのですが、同時に、夜明けに始まり日没に終わる一日の移ろいでもあるように、と考えて作りました。作品の風景は、記憶に残っているふるさとの景色をぐるりと見回したのが元になっていて、描かれている木、動物、人物などは、すべてが私の分身という気持ちです。~後略」

IV 雲や流水そして宙(そら)
自然観察を生涯続けた英遠は、空に浮かぶ雲や自然な流水に興味を抱き、書籍はもちろんのこと、映像やテレビ、報道からも自然現象に関する科学的知見について貪欲に学びました。こうして真摯(しんし)に学び観察してきた自然現象をモチーフとして、画家の独壇場といっていい雲や流水などを表現した作品が生まれました。
また、英遠は天文現象にも関心を寄せていました。「自分は何も誇れるものはないけれど、ハレー彗(すい)星を二度見たことが、生涯の自慢だ」と語り、7歳のときに江部乙で見たハレー彗星の記憶を生涯大切にしていました。83歳のとき、終焉(しゅうえん)の地となった相模原市でも再びハレー彗星を眺めます。そのとき、宇宙の中に存在する自分を感じ、ハレー彗星の輝きに感動した遠い少年の日に想いを巡らせていたのかもしれません。

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