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360年の生命(いのち)を紡いで(1)

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埼玉県三芳町

■武蔵野の落ち葉堆肥農法
「世界農業遺産GIAHS-ジアス-に認定!」
三芳町を含む武蔵野地域(他に川越・所沢・ふじみ野市)に伝わる「武蔵野の落ち葉堆肥農法」。江戸時代から360年の生命を紡いで連綿と続いてきた伝統農法が、令和5年7月5日(水)、FAO(国際連合食糧農業機関)からGIAHS(世界農業遺産)に認定されました。

◆日本から世界へ
三芳町が初めてGIAHSに申請したのは平成26年。当時は町単独での申請でしたが認定はかなわず、平成29年に現在の武蔵野地域で申請し、日本農業遺産に認定されました。その後も平成30年にGIAHS認定を目指して申請し、令和2年の4度目の申請で9年越しに認定を果たしました。
今回は「武蔵野の落ち葉堆肥農法」の特集。世界に認められた本農法とはどんなものなのか、なぜ360年以上も続いているのか、これからどうなっていくのか。それぞれの疑問をひも解きながら本農法の魅力に迫ります。

○世界農業遺産(GIAHS(ジアス))
Globally Important Agricultural Heritage Systems(世界重要農業遺産システム)の頭文字をとって「GIAHS(ジアス)」。社会や環境に適応しながら何世代にもわたり継承されてきた、独自性のある伝統的な農林水産業と、それに密接に関わって育まれた文化、ランドスケープ及びシースケープ、農業生物多様性などが相互に関連して一体となった、世界的に重要な伝統的農林水産業を営む地域(農林水産業システム)。FAO(国際連合食糧農業機関)により認定されます。(認定基準は本紙P5参照)

○世界遺産との違い
世界遺産は、国際連合教育科学文化機関(UNESCO)が顕著な普遍的価値を持つ建造物や遺跡、景観、自然などの文化遺産・自然遺産・複合遺産に分類して認定します。世界遺産が「過去の遺産」の保護を目的とするのに対して、世界農業遺産は農林水産業システムという「生きている遺産」の保全と持続的利用を目的にしている、それぞれ別の制度です。

○世界農業遺産認定地域
令和5年8月現在、世界農業遺産は世界で24か国78地域、国内では15地域が認定されています。国別では、日本は19地域の中国に次いで2番目の数です。

■生命力がある農業システム
「先人の想い受け継いで」
三芳町は美しいヤマ(平地林)、江戸時代の開拓の名残を残す町として知られ、多くの農家が伝統の「落ち葉堆肥農法」を受け継ぎ、美味しい野菜を生産しています。
「この農法には生命力がある」。FAO(国際連合食糧農業機関)科学助言グループの李先徳氏(中国)の言葉です。6月22日(木)に実施された現地調査で、武蔵野の落ち葉堆肥農法が若く情熱を持った農業者に継承されている現状に触れ、当農法の持続の可能性を「生命力」と表現しました。落ち葉堆肥農法は、土地を屋敷地・畑地・ヤマの3区画に分けて複数の機能を持たせ、地域内の資源を最大限に利用した伝統農法です。
三芳の地で先人から受け継がれてきた「生命力」があるこの農法はFAOの書類審査、現地調査で認定基準(P5上部)を達成し、この度、GIAHS(世界農業遺産)に認定されました。

○FAO現地調査
6月22日(木)に実施した現地調査。多くの実践農業者、関係者の協力がありました。

・調査者 李氏 三芳町役場到着
・三芳町役場で農法の概要説明
・トラスト地視察
・旧島田家住宅で実践農業者から説明
・上富小学校から地割視察
・実践農家で堆肥場、畑地、ヤマの視察
・昼食。農産物利用のレストラン視察
・木ノ宮地蔵堂視察
・Pasar三芳で農産物販売状況視察
・(川越)実践農家で堆肥場、畑地視察
・(川越)ウェスタ川越で調査員による講評
・(川越)レセプション・伝統芸能視察
・現地調査日程終了

■GIAHS認定の5基準
「武蔵野の落ち葉堆肥農法」の基準ごとの特徴を紹介します。
SDGsの達成に大きく貢献する可能性を秘めているGIAHS。各項目の写真下にあるアイコンはそれぞれに深く関係するSDGsの目標です。

(1)食料及び生計の保障…多種多様な農産物の栽培と都市近郊を活かした農産物の販売、農業の6次産業化への取り組みが行われています。
(2)農業生物多様性…堆肥の原料である落ち葉を採取するため、人の手により管理されたヤマが、希少な動植物の生育環境を育んでいます。
(3)地域の伝統的な知識システム…農業者が住民とともに行う落ち葉掃き。落ち葉の集め方には伝統の知恵が詰まっています。
(4)文化、価値観及び社会組織…多方から入植してくる開拓農民の精神的なよりどころとなった菩提寺が今も人々の信仰を集めています。
(5)ランドスケープ及びシースケープの特徴…短冊状の地割の面としての広がりが、特徴的な農業景観を生み出しています。

■武蔵野の落ち葉堆肥農法
農業を行うには非常に厳しい自然条件の土地で作物を育てるため、一軒の敷地を短冊状にして屋敷地・畑地・ヤマを配置。ヤマには堆肥に適したクヌギ、コナラ、エゴなどの木を一から植えて、落ち葉を堆肥化して土壌改良を行いました。「低炭素社会」、「環境保全社会」、「自然共生社会」に貢献する持続可能な農法です。

≪短冊状の地割≫
農業に適さない土地で作物を育てるため、先人の知恵が詰まっています。

○(平地林)ヤマ
風対策:ヤマ
周囲のヤマと連なり地域で防風帯となります。

○畑地
風対策:畦畔茶(けいはんちゃ)
畑の茶の木などが風による土壌流出を防ぎます。

○屋敷地
風対策:屋敷林
農具の材料などになる竹などを植え、防風林としました。

(1)低炭素社会の実現
光合成で二酸化炭素(CO2)を吸収した葉を燃やさずに堆肥として土壌に還元する、炭素(C)の貯蔵庫のような役割を果たしています。

(2)環境保全型社会の実現
落ち葉を廃棄物として処理するのではなく、堆肥として利用し、環境を保全する側面があります。

(3)自然共生社会の実現
ヤマの落ち葉掃き、下草刈り、間伐などにより明るく、見通しの良い林をつくり、生物多様性と生態系の保全に貢献しています。

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