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不滅の福澤プロジェクト(3)

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大分県中津市

■社会を科学的視点で
都倉准教授:『学問のすゝめ』には、福澤諭吉の「学問によって社会を変えていく」という信念が表れていますが、科学的な視点を大事にしていたことも大きなポイントです。咸臨丸で米国に、文久遣欧使節団として欧州に行き、帰国して著した『西洋事情』で海外の事情を紹介しています。この扉絵には地球が描かれていて、電柱が立ち、張り巡らされた電信線の上を人が走っています。人は、擬人化された情報・インフォメーションといわれています。文明の利器である蒸気船、蒸気機関車、気球も描かれ、「蒸気済人電気伝信」、蒸気が人を救う、電気が信(インフォメーション)を伝える、という言葉も書かれています。科学の目で、世界の変化が社会の変化にどうつながるかを見据えていたのが、福澤諭吉です。科学者として、伊藤塾長はどのように福澤諭吉をご覧になっていますか。

伊藤塾長:福澤諭吉は『物理学の要用』という短い文章を発表しています。ここでいう物理学は自然科学全般を指す言葉で、現代の物理学者から見ても非常に的確な記述がされています。1気圧であれば水は100℃で沸騰するし、氷は0℃で溶ける。こういった真理を一つ一つ解き明かしながら、その真理を国や世界の発展に生かすということが書かれています。福澤諭吉は科学的なことを徹底的に学んだ上で、それらが社会を良くしていくということを理解していました。

奥塚市長:伊藤塾長は、ナノテクノロジーや量子コンピュータ研究の第一人者とお伺いしています。現在、取り組んでいる研究と目指しているものについて教えてください。

伊藤塾長:量子コンピュータは25年前から研究しています。電子1個が計算に使えるかどうかに焦点を絞って、量子力学的な視点で調べてきました。純粋な物理学の研究でしたが、計算できるということになると、それを組み合わせて量子コンピュータという方向に進んでいったのです。よく「これ以上コンピュータは発展しなければいけませんか」と聞かれます。今のまま世界が止まっているのなら何も問題はないのですが、科学技術の場合、必ず誰かが進めてしまう。今話題となっているチャットGPTもそうです。ウェブで、自分の好きなように文章を書き込むだけで、絵を描いてくれるし作文もしてくれるようになりました。多くの人が使えるようになったことで、好むと好まざるとに関わらず、一気にAIの活用が進みます。だれも止められないのであれば、正しい方向に進めるということが何よりも重要になります。AIや量子コンピュータといった最先端で起こっていることで大切なことは、若者の方が優れていることが出てきたことです。慶應義塾には「半学半教」という考え方があります。今の時代はまさに、教員や学生が横並びになって、一緒に学問を、社会に役立つものをつくっていかなければいけません。一人一人が自分の好きなことだけをやるのではなく、学生が集まって、もっと良い社会について、自分たちの権利も含めて考えていってほしいと思っています。

都倉准教授:チャットGPTとの向き合い方に対しては、どういうお考えですか。

伊藤塾長:チャットGPTは相談相手なので、命令をして文章を書いてもらっている限りは、あまり脅威を感じません。悪いことのために、知識や能力のなかった人たちが活用していくようになれば大変です。これをどう制御していくかは大きな問題で、迅速に法律、倫理といった人文学、社会科学が反応していかなければいけないと感じています。

奥塚市長:今のAIを、江戸から明治にかけて入ってきた西洋の新しい考え方・文明に置き換えると、人々の間に明るい未来への期待と心配の両方があり、当時と今の時代は似通った部分があると思います。福澤先生が今の時代にいたら、AIについてどのようなことをおっしゃるでしょうか。

伊藤塾長:「放っていたら勝手に誰かが進めてしまう。正しい方向に進むように、積極的に自分たちが関わっていくべきだ」という一言に尽きると思います。

■「教育のまち」目指す
都倉准教授:最後に、お二人はお互いに質問があるそうですね。

伊藤塾長:奥塚市長、福澤先生のような人物は中津で育っていますか。

奥塚市長:育っていると思います。中津の人は多かれ少なかれ、小さい頃から福澤先生について理解しながら育っています。市内で頑張っている市民も、市外で活躍している中津出身者も大勢います。福澤先生の精神が生きている結果だと思いますし、福澤先生の真髄を知れば知るほど、そういう人材が増えてくると思います。では伊藤塾長、福澤先生のような人物は慶應義塾で育っていますか。

伊藤塾長:もちろん「イエス」です。福澤先生のように、新聞のレベルで、誤解を恐れずにスパスパっと発言する人が今日本にいるかというと、まだ我々も頑張らないといけないと思うところもあります。

都倉准教授:今日は、福澤諭吉を原点にもつ中津市と慶應義塾について、さまざまな論点からお話しいただきました。最後に、対談を通じて感じたこと、これからに向けて一言ずつお願いします。

伊藤塾長:今日は大勢のみなさんにお集まりいただきましたが、みなさんがいろんなことを考え、時には「それは違う」という意見を持ちながら、話に耳を傾けてくださっていることがよく分かりました。このようなみなさんの中で育つ中津の子どもたちは幸せです。

奥塚市長:中津市は、若い人からお年寄りまで、学びたいときにいつでも学べる「教育のまち」を目指しています。今、リカレント教育やリスキリングが注目されているので、社会人がレベルアップできるような学びの場も提供していきたい。例えば、福澤先生が説いた男女共同参画にちなんで、女性活躍を推進する講座とか、軍師として知られる黒田官兵衛にちなんで、ビジネス戦略を学ぶ講座とか。そういう取り組みが、福澤先生が我々に投げかけた宿題への、一つの答えになるのではないでしょうか。それには、協定を結んで協力してくださっている慶應義塾の力が必要です。引き続き、福澤先生に関する共同研究と、多分野にわたる教授陣の派遣をお願いします。

※対談動画の二次元コードは本紙をご覧ください。

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