■限界を超える壁
~立ち向かう人間の強さ~
平穏に迎えたはずの今年の正月。人びとの生活を一変させた巨大地震が、石川県能登半島で発生してしまいました。1月1日午後4時過ぎ、震度7を観測した巨大地震は家々を押し潰し、道路は寸断。火の手が上がり街を焼き尽くし、電気も水も閉ざされ、津波に見舞われた海岸線は隆起し、漁船も近づくことができない。まさに孤立無縁の半島となってしまいました。
地震の翌日、崩れ果てた我が家を前に、ただ呆然と立ち尽くす被災された女性の姿。周辺の街並みも一変してしまった状況の中、「これからいったいどうなるんでしょうかねえ」と、まるでよそ事のように語る言葉が、静かに響き渡ります。悲嘆とか困難など遥かに超える現実が、人びとの心をも無表情にしかなり得ない虚ろな姿に変えてしまうものなのかと、思わずにはいられませんでした。
地震発生から1か月余り、被災の実態が明らかになるにつれ、その被害の膨大さ甚大さに、息をのむばかりであります。日々変化する状況の中で、人びとの心も激しく大きく揺すぶられてきたのではないかと思います。
自営業を営んでいたある年配の女性の方の声が、私の心に深く響き、沁み込んできました。屋根が潰れ、瓦礫と化した自宅を前に、もう再起は無理だと、立ち直ることもできないあきらめの気持ちと、それでもどうしても頑張らなければならないという、そんな激しく揺れ動く心境の中で、「地震の所為(せい)で仕事ができなくなったということだけはしたくない。あと何年続けられるか分かりませんが、自分の身体が続く限りは頑張っていきたい。そしてそれもかなわなくなった時、店を閉じたいと思います」。
この限界を超える壁を前にした一人の女性の言葉が、私の胸から離れません。
朝日町長 鈴木浩幸
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