文字サイズ
自治体の皆さまへ

【連載】随想 町長の見て歩き(156)

17/40

山形県飯豊町

■『駅、ふたたび』
後藤幸平
モビリティ専門職大学の先生方と打ち解けた会合をもった。それぞれの趣味の話になって、本当はギターを弾いている時が一番幸せな時間だなどということに。それじゃ一曲と、ひとりの先生から飛び出したのは『禁じられた遊び』だ。戦争で父と母と愛犬を一瞬にして失った少女ポートレットが、孤児院に送られる。その途中、少女は駅の雑踏に友だちミッシェルを呼ぶ声を聴く。突き動かされたように人ごみのなかを駆けて「ミッシェル、ミッシェル」と捜す声が「ママ、ママ」と叫ぶ声にかわる。その時流れるのが、あの不朽の名作『禁じられた遊び』である。幼気(いたいけ)な少女を孤児に追いやる戦争の悲惨さと愚かさを、美しい旋律で訴えるラストシーンに心揺さぶられた若き日の自分がいる。舞台は大勢の人々が行き交う駅であった。
同じころ、映画『ひまわり』を見た。戦争で別れ別れになった男と女の切ない物語である。どこまでも続くウクライナのひまわり畑の中に夫を探す女性を、ソフィアローレンが力強く演じた。しかし、手がかりは戦死者の墓標にはなく、命を救ってくれたロシア人の女性とともに暮らしている姿を見つけるのだった。ミラノ中央駅のプラットホームに残されるソフィアローレン、彼女を残して発車する列車のマストロヤンニ、このラストシーンに駅が果たした効果は絶大である。
駅をテーマにするなら、山田洋次監督の作品に触れなくてはならない。葛飾柴又の駅はもちろん、『男はつらいよ』で寅さんがボストンバックを脇にローカル線を待っているシーンは全五十作中にどれほどあるだろうか。第六作『純情編』。「故郷ってやつは…故郷ってやつはよ…」寅さんの声は列車のドアにさえぎられてホームのさくらには届かぬまま、電車はたつ。柴又駅の名場面である。
出会いや別れ、日常の暮らしとたくさんの人生を見守る駅である。鉄道には不動の安定感と存在感がある。それが過去を未来を今を創る。常に変化し続ける道との違いである。公共交通は生活圏の広域化になくてはならない。米坂線を採算だけで論じてはいけない。

<この記事についてアンケートにご協力ください。>

〒107-0052 東京都港区赤坂2丁目9番11号 オリックス赤坂2丁目ビル

市区町村の広報紙をネットやスマホで マイ広報紙

MENU