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特集 やすぎどじょう生産組合設立20周年(1)

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島根県安来市

■ドジョウを安来の名産に
今年で20年を迎えたやすぎどじょう生産組合。「安来市といえば…、安来節やどじょう掬い踊りだけでなく『どじょう』そのものも市の代名詞へ」と活動を続けてきました。
とはいえ、ドジョウ養殖が軌道に乗るまでは苦難の数々がありました。
壁を乗り越えて、現在では年間出荷量はおよそ3000kg、全国から注文多数の人気商品に。「骨が柔らかく食べやすい」と評判の、やすぎどじょう養殖に携わる人々を取材しました。
※一般的な名詞としてはカタカナで「ドジョウ」、「やすぎどじょう」や「どじょう生産組合」など固有名詞はひらがなで使い分けています。

◇やすぎどじょう養殖の歴史
市内でドジョウ養殖が成功するまでに3回の挑戦と失敗がありました。
最初の挑戦は、まだドジョウ養殖の技術がほとんどなかった昭和30年代。天然のドジョウを捕獲して、コンクリートで壁をした水田に放し、加熱処理した魚のアラを餌に養殖を試みました。しかし、まず養殖するためのドジョウを大量に捕まえることは難しく、せっかく捕まえても逃げられたり、鳥に食べられたりと、取り組みは失敗に終わりました。
2回目の挑戦は昭和40年代初期。天然のドジョウを捕まえて育てるという部分は変わりがありませんでしたが、今度はしっかりした囲いを作り水深を深くして鳥害や脱走への対策をとったり、餌を改良したりしました。また、県外のドジョウ養殖の知識を学ぶなど、技術向上という成果がありました。それでも、収穫という段階でドジョウはほとんど捕獲できないまま、取り組みは終了しました。
3回目の挑戦は、当時下火になり始めていたウナギの養殖池を再利用する形で、昭和59年から平成5年頃まで行われました。この挑戦ではドジョウの人工ふ化に成功しましたが、コストの問題から、市外で購入した稚魚を使った養殖に切り替わっていきました。そうこうするうちに、養殖を推進していた組合が解散。そのまま生産者がいなくなり、取り組みは終了しました。
現在のやすぎどじょう生産組合(以下、組合)の活動は、4回目の市内ドジョウ養殖です。生産者に話を聞きました。

◇ドジョウ養殖の屋台骨 ドジョウ餌の開発
4回目となるドジョウ養殖挑戦にあたって、組合ができる5年ほど前から、それまでの養殖失敗の原因を見つけ、解決するための取り組みがされていました。
養殖失敗の原因の1つは、成長するまでに多くのドジョウが死んでしまうことでした。
ドジョウが死んでしまう理由は餌にありました。過去のドジョウ養殖では、動物性タンパク質を多く含んだコイやアユの餌などを利用。しかしこの餌は、ドジョウの臓器を太らせてしまい、腸でも呼吸するドジョウは、成長とともに腸閉塞で酸欠になって死んでしまっていたのです。
そのため、植物性タンパク質を多く含む新たな餌の開発を始めたのが現組合長の渡辺健次さんです。当時JAやすぎ精米センターの所長だった渡辺さんは、米ぬかを使うことを考えました。米ぬかは、コメを精米するときに出る、コメを守る層で、ミネラルやビタミンなど栄養豊富な材料です。
その後は、育成に最適な配分を、費用面も考慮しながら研究する日々。「毎日のように顔を合わせる水槽のドジョウを相棒のように感じていました」と渡辺さんは苦難の日々を振り返りました。
5年かけて作られた餌は、ドジョウの育成段階にあわせて量や期間などマニュアル化され、組合全体を支えています。
渡辺さんは「餌の開発を始めて25年間、養殖も長く行ってきました。最初の頃は、プランクトンの発生のタイミングが合わず、池のドジョウをいっぺんに失ったり、逃げられたりと苦労も多くありました。しかしその分、自分が開発した餌を食べ大きくなっていくドジョウを見ていると達成感がありますし、出荷まで元気に育つと嬉しく感じます」と養殖のやりがいを語りました。

◇ドジョウ養殖に新たなる風
年々高齢化が進み、生産域が減少しつつあるドジョウ養殖ですが、令和2年度頃から、新たに事業を始める人も増えています。令和5年度から組合員となった1人に話を聞きました。
辻谷睦巳さんは、島根大学エスチュアリー研究センターの協力研究員であり(エスチュアリーとは、河川の下流で海水と淡水が混ざる河口湾のこと)、環境分析等の仕事も行っている、水生生物や水質環境などの専門家です。ドジョウ養殖を始めたのは、妻の実家がある安来市にIターンしたことがきっかけでした。
田んぼを所有していなかった辻谷さんですが、組合と相談の上で、前組合長の養殖池を借りることができました。令和4年末頃から池の整備を始め、現在は養殖池6カ所約1,500平方メートルで養殖を行っています。
ドジョウ養殖を始めたばかりですが、しっかりとしたマニュアルがあり、組合事務局にもよく相談して、順調に養殖を進められています。
あえて気になることとして「藻類がかなり発生している中でもドジョウは元気に生きているのには驚きました」と話す辻谷さん。餌に含まれる窒素や栄養、水温の変化などで、ある時期から藻類が急激に増加しました。藻類が増えすぎると、夜の間に水中の酸素がなくなってしまいドジョウが酸欠になってしまうという問題が出てきます。
辻谷さんは、1年の流れを確認するため、ドジョウの成長速度と水質データの関係性を記録にとっています。今後は、問題がない内はあまり状況を動かさず、様子を注視しながら養殖していく考えです。
「自分が関わった研究や仕事のノウハウを役立てていきたいです。コスト管理や成長の安定化など、力になれることがあるのではないかと思います」と熱意を込める辻谷さん。ドジョウ養殖技術の革新が期待されます。

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