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自治体の皆さまへ

国際交差点vol.42

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島根県松江市 クリエイティブ・コモンズ

身体の全毛穴から汗が噴き出るような香辛料の香りでインドを存分に感じ、心地よく迎える初夏の朝。いや全然違う。ここは松江市の山の麓(ふもと)にある築150年の古民家である。この古民家の住人であるインド人留学生は、毎朝圧力鍋を使って、自炊をする。その際用いるスパイスがインドを思わせるのだ。
そんな私も、実は大学進学を機に他県からやって来た『生粋新米ほやほや島根県民』。天竺の夢から目を覚ました私は、古びて軋む床を歩き、朝日が差し込む玄関口へと向かう。今日もよく晴れている。おはよう世界!そんなあほみたいなことを叫んでいたら、そばにいた飼い猫が「そんなこと言ってないではやくメシをくれ」と鳴いている。せっせと戸棚からエサを取り出してそれを丁寧に与える。そのそばでにこにこと微笑んでいるのは、これまた住人の中国から来た留学生。授業を受けるため大学へ行くようだ。
その彼を見送り、雑草だらけの畑の野菜に水をやる。そういえば、このジャングル畑では、トマトやナスをはじめとするおよそ10種類の野菜を育てている。先ほど見送った彼が育てているインゲンは絶品中の絶品である。野菜ができると台所で料理して、それをわけて食べる。料理が下手なものだから、基本的に生野菜に塩を振ったり調味料をかけたりするだけだが、やはり自分たちで育てて一緒に食べる野菜に勝るものはないと思う。話の道草をくってしまったが、きっとそれはおいしい草なので許してほしい。
さて、私の朝はこんな感じ。生意気で社会を知らないただの大学生の私が、一体何を言いたいのか。それは、多文化が生活の中に溶け込み、ただその生活を『めで営む』ということこそが多文化共生であるということだ。もちろん、多文化共生を掲げて目標を練ったり何か事業を行ったりすることは重要なことである。しかし、無意識的にそれと向き合い、日々を織りなす生活もある意味で生身の多文化共生であるということを肌で実感している。なかなか言葉だけでは伝わらない。皆さんに正確にお伝えするためには、まずはこの古びた扉を開けて、スパイスの香りと、蚊取り線香、それから中国語で交わされる日常会話を体感してもらうことが『好(ハオ)』だろう。
広い世界のただのちっぽけなひとりの人間より。島根の古民家からありったけの愛をこめて。

今回は、留学生と地域のみなさんとの交流の拠点となっている松江の「国際交差点」、古民家「上手(わて)」で多国籍な共同生活を送っている大学生のOさんに執筆していただきました。

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