■個性を受容する
「小さきは 小さきままに 折れたるは 折れたるままに コスモスの花咲く」
福岡県の博多湾の沖に浮かぶ能古島は、コスモスの名所として有名である。そこに、この歌碑がある。作者は、日本最初の重度障がい児童通所施設「しいのみ学園」を創設した昇地三郎先生である。先生は、教育心理学の分野だけでなく、歌人としても有名であった。
「科学には限界があるが、愛情には限界がない」という理念の下、二人の息子さんを育てた先生のこの歌は、障がいがあっても子ども達にはそれぞれの能力と可能性があり、それは必ず開花するということを私たちに教えてくれている。
役場で実施された人権研修会でこの話を聞いた時、私の脳裏に小中学校時代に同級生であったI君のことが浮かんだ。自閉症という障がいがあったI君は、特別支援学級に在籍していたが、学校行事や幾つかの授業では、私たちと一緒に活動していた。彼が小学校の卒業式の日に手のひらサイズの手作りの熊のぬいぐるみをクラス全員にプレゼントしてくれたこと。
中学校の少年式行事として一緒に長い距離を歩いたこと。様々な思い出がよみがえってきた。I君は物静かでおとなしかったが、その集中力の高さには、驚かされ、感心させられた。ぬいぐるみ作りや長距離歩行ばかりでなく、日々の部活動で黙々と反復練習に打ち込む彼の姿には目を見張らされたものである。
私たちは、一人ひとり個性を持って生まれてくる。見た目の違いもあれば、内面の違いもある。もちろん各種能力の違いもあるだろう。しかし、それら全てを含めたものが個人である。「個人を尊重する」とは、他者との違いを含めたその人の全てを受容することである。昇地先生の話やI君との思い出を辿りながらそのことを強く感じた。そして、一人ひとりがそのような気持ちで日常生活を送ることが、住みよい地域づくりにつながるはずである。
伊方町中央公民館 主事 井上葉由季
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