「デラシネ雑感」
山下重樹(しげき)さん(65)[中野]
縁もゆかりもない内子町に住んで15年が経ち、高齢者の域に入りました。親が転勤族だったので、私には故郷がありません。「なぜこの地に」と聞かれると、仕事で行ったバリ島の原風景と似ていたから。農業の研修や起業で移住する決意もなく、ただ漫然と住んでみようと決断しました。
自身の過去を振り返ると、時代に流されてきた人生だと感じます。東京オリンピックと大阪万博には、小学生のときに訪れました。高度経済成長期の象徴だった新幹線は、社会人になって週に3回ほど利用していました。2000年問題では事態の対処を行うため東京へ赴任。バブル時代には貨幣価値にまひが生じ、はじけてからの緊縮対応への順応が難しかったのを覚えています。
サラリーマンとして会社の利潤追求のために翻弄された流れを断って、大瀬地区にたどり着きました。この地は時間の経過が自然と調和しています。地域の人との交流も楽しく、「この野菜あげらい」と声をかけられたり、イノシシの肉をもらったりすることも―。もらった和ハーブのクロモジは香りを癒しに利用しています。還暦の手習いで始めた魚料理も自己満足で楽しんでいます。こうした時間の流れや四季の変化を楽しむことが今のぜいたくであり、人生の醍醐味だと考えています。デラシネ※だからこそ、この地で今までにない楽しみを見つけられるのかもしれません。そんな雑感を思いながら夜空を見上げてみる―。今日も星空が奇麗です。
次は、千葉真史さん[中野]にお願いします。
※根なし草のこと。故郷をもたず、根の無い草のように生きていく人。
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