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自治体の皆さまへ

中学生の思いを伝える「少年の主張」(2)

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愛知県美浜町

■後悔のない今を
野間中学校 三年 岸岡 莉胡

心臓がキュッとなった。自分のせいで大切な人の命を奪ってしまうのではないかと焦り、ひどく後悔した。今まで考えたことも無かった身近な人の死、それを初めて感じたあの日のことを、私は一生忘れることがないだろう。
私の父は数年前から、ANCA血管炎という免疫不全の難病を患っている。この病気には、現在明確な治療法がないため、父は大量の投薬で症状を抑えながら日々の生活を送ってきた。免疫不全とは、本来体を守るために存在している免疫細胞が異常を起こし、正常な細胞までも攻撃しだす病気だ。風邪を引いただけでも生命に関わってくる、常に死と隣り合わせの生活。完治する方法は今のところ存在しない。それでも、父は難病と向き合って闘っている。私はそんな理不尽な運命を背負っていても突き進んでいく父をとても誇らしく思う。
ある日、私は新型コロナウイルスに感染した。私のみならず、母、姉、そして父が新型コロナウイルスに感染し、病状が悪化した父は入院することになった。病気の父が入院するというのはよくあることで、今回も数日後にはケロッとした顔で帰ってくるのだろうと、私は軽い気持ちで考えていた。しかし、父が入院して数日後、家は重い空気に包まれていた。
「パパが死ぬかもしれない」
母からそう淡々と告げられた私は、あまりの衝撃に情報を処理しきれなかった。一呼吸おいて、「父にもう会えないかもしれない」ということを理解する。涙が止まらなかった。もう一呼吸おくと、後悔の念が心の中で溢れかえる。その時初めて、人の命の重みを感じた。もっと父と話し、出かけ、思い出を作っておけばよかった。今まで自分が父にとってきた態度の全てに悔しさを覚えた。何かあるごとに父のことを考え、生きて帰ってくるように願い続けた。この願いが届いたおかげか父の強い心のおかげか、そして数日入院が早かったこともあり、父の病状は回復し、一週間もしないうちに家に帰ってきた。きっと、また同じように新型コロナウイルスに感染したとき、今回のような奇跡は起こらないだろう。だからこそ、これから先、私は父と過ごす時間を一分、一秒と大切にしていきたい。
この体験から、「今を共に生きる人との時間を大切にしてほしい」と主張する。家族、友達など身近な人と生きる時間を大切にしてほしい。中には、家族が嫌い、この友達は苦手だという人もいるだろう。嫌いな人との時間をなぜ大切にしなければいけないのかと考えるかもしれない。私も正直父のことが好きというわけではない。しかし、そっけない態度をとっていたことを泣くほど後悔した。だから、もう一度これから先の長い未来を見据えた上でその人について考え直して、改めて聞いてほしい。
あなたは、テレビで全く知らない人が亡くなったというニュースを見て、泣くほど悲しんだことがあっただろうか。ほとんどの人が「可哀想に」と思うだけで、泣けるほど悲しんだことはないはずだ。では、逆に身近な人が事故に遭い、亡くなったと言われたらどうだろうか。きっと、私が体験したように、ひどく悲しみ、泣き、後悔するだろう。今、当たり前のようにあなたの傍にいる家族、友達のことは、「当たり前」だからこそその存在の大切さに気が付かない。そしてその「当たり前」が崩れた時に、大切さに気が付くのだ。しかし、これでは気が付くのに遅すぎる。死んでしまっては生き返ることはなく、こんなにも自分にとって大きな存在だったのに、なぜもっと大切にしなかったのだろうという後悔だけがあなたに残ってしまう。そんな後悔を、私はしてほしくない。今を共に生きる大切な人との時間を一分、一秒大切にしているか。一度その人との思い出を振り返って、考えてほしい。もし、大切にすることができていなかったのであれば今からでも大切にしてほしい。大切にできているのであればもっと大切にし、後悔の残らない未来を生きてほしい。

問合せ:生涯学習課
(美浜町総合公園体育館内【電話】82-5200)

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