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良寛をたどる。

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新潟県出雲崎町

このコーナーでは、良寛記念館に所蔵されている良寛に関する作品をご紹介します。

良寛遺墨歌切『かぜまじり・よもすがら(二首)』
一首目 長歌『かぜまじり』部分

■原文
閑世※萬志里遊幾波
布利幾奴由きま之
理安面者ふ利起ぬこ
能ゆふ幣お幾以天き
気は加里駕祢裳阿
末都美處羅遠奈
津み川々遊久
※環境依存文字のため、置き換えています。正式表記は本紙をご覧ください。

■読み下し文
風まじり 雪は降りきぬ
雪まじり 雨は降りきぬ
この夕べ 起きいて聞けば
雁がねも 天(あま)つみ空を
なづみつつ行く

■意訳
風と一緒に雪が降ってきた。さらに雪と一緒に雨も降ってきた。今夜は寒くなると考えて寝られずにいると、夜の雁の鳴き声が聞こえてきたのである。きっと、この天気の中、雁も切ない思いをしていることだろうと思ったのである。

■解説
当良寛遺墨歌切『かぜまじり・よもすがら(二首)』は、令和五年四月に匿名で良寛記念館に寄贈された作品。当作品で良寛記念館が収蔵する良寛遺墨は、五十二作品となる。
当長歌で目を引くのは「雁」の存在である。良寛が「雁」を題材とした作品で有名なものに、良寛記念館所蔵で父以南(いなん)の七回忌で詠んだ俳句「そめいろの 音ずれ告げよ 夜の雁」がある。「そめいろ」とは、インドのサンスクリット語の「スメール(sumeru)」)の音写であり、漢語では「須弥山(しゅみせん)」となる。須弥山とは、インドの世界観に於ける世界の中心にそびえる神聖な山のことである。その頂上には帝釈天(たいしゃくてん)が住んでおり、仏教を守護していると云われる。また雁は江戸時代当時、夜も飛んで移動することから「夜を渡る鳥」と呼ばれた。そして、「夜」を同音の「世」と掛けて「あの世(須弥山世界)とこの世を渡る鳥」と伝えたのである。良寛は、あの世とこの世を渡る鳥と云われる雁に、もし亡くなった父以南を須弥山で見掛けたならば、私に「音ずれ」、父の音信を伝えて欲しいと「雁に願」を掛けたのである。良寛俳句「そめいろの」は、良寛俳句の中でも、良寛らしさが窺える名品と呼ばれる。当長歌も前述の「雁」の謂れを含んでいると考えて読むと作品が深まる。
当長歌は、良寛弟由之(ゆうし)の『八重菊日記』(文政十三年)に写されていることから、一八三〇年、良寛七十三歳頃の作歌と分かる。丁度、良寛が亡くなる一年前である。良寛が本格的に体調を崩すのはこの年の夏と云われているが、作中「風まじり雪は降りきぬ~(中略)~この夕べ起きいて」と「今夜は冷え込む」と考えただけで不安で寝れなくなる、と詠んでいる。以上から、良寛は、この時すでに寒さがかなり身体に堪えるほど、体調を崩していたと思われる。そして、自らの体調に不安を感じている時に雁の鳴き声を聞き、自分も切ないが、あの世の須弥山から渡ってくると云われる雁は、もっと「なづみ」、切ないことであろうと、雁に心を掛け心配するのである。
よく良寛は優しい人、思いやりのある人と云われる。そう云われる所以は、我々が普段気にも留めないものに目をやり、そのこころを汲むことだと思う。当長歌は、そんな良寛の心がよく現れている歌である。このような書体と内容が整った素晴らしい作品をご寄贈いただき、また展示できることが何より嬉しい。
良寛記念館 館長

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