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【特集】千代田に眠る古(いにしえ)の記憶-発掘調査・文化財からみえてくるもの―(2)

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■英国大使館跡で見つかった遺跡
一番町の英国大使館の跡地でも、開発に先立って遺跡が見つかり、令和6年4月まで発掘調査が行われました。この発掘調査では、縄文・弥生時代、江戸時代と大きく分けて2つの時代の遺跡が確認されました。
縄文・弥生時代の遺跡としては、区内でこれまでに見つかった中では最大規模となる弥生時代後期の住居跡53基が発見されています。富士見~番町周辺の地域ではこれまでの発掘調査でも弥生時代の遺跡の一部が見つかることがあり、かつての生活の場であった可能性が指摘されてきました。ところが、江戸時代の城下町の整備やその後の再開発が盛んに行われてきたこの地域では、後の時代の遺跡などに壊されるなどしたために、まとまった数の住居跡が見つかってきませんでした。今回発見された住居跡もほとんどすべてが後の時代の遺跡に一部または大部分を壊されながら残されていた状態です。それでも、一定以上の規模の弥生時代の集落が半蔵門周辺にあったことがわかった点は、区の歴史を知るうえでは手がかりと言えます。
江戸時代の遺跡としては、旗本屋敷や大名屋敷の一部であったとみられる建物礎石(そせき)(建造物の基礎にあって柱などを支える石)の跡や地下室(むろ)、上水施設などが見つかっています。この中で、興味深いものの一つに版築(はんちく)を伴う道の跡があります。版築とは砂や土を交互につき固めて硬い土の面を作る方法のことで、ここでは人々が歩く路面を作るために行われた可能性が考えられます。測量作業の結果、この道の跡は現在の周辺の通りに対して主軸がやや反時計回りに傾いていることが確認されました。
実は、これには番町地域東側のまちなみの歴史と深い関わりがあります。江戸時代の初め頃、江戸城西側の城下町は外堀に並行な町割りが行われました。このため、外堀から遠い番町地域東側のまちなみは地形の起伏にあっておらず、千鳥ヶ淵周辺には狭い旗本屋敷がひしめきあっていました。この町割りは、元禄年間のころ(17世紀終わりから18世紀初め)江戸城の防火対策を目的として取り払われ、火除明地(ひよけあきち)となってしまいます。町割りが再度整備されたのは18世紀の初め頃とみられ、このときに内堀に並行な町割りに改められています。このとき改められた町割りが現在のまちなみや内堀通りの主軸方向に受け継がれていきました。今回見つかった道の跡は現在では残されていない、江戸時代初めの町割りの様子を今に伝えているのです。

■発掘調査のこれから
発掘調査は、開発などで遺跡を残すことができない場合にとる手段ですが、発掘調査を行って掘り返してしまうこと自体も遺跡の破壊と言われることがあります。それは、掘り返すことによって覆いかぶさっていた土や、遺跡に伴っていた土器などが取り出され、情報が失われるためです。それでも失われてしまう遺跡から地域の歴史に関する知見を引き出す方法としては、発掘調査によって詳細な記録をとっておくことが有効です。
発掘調査の成果は、現地での調査で採取された写真や測量の成果に加えて、その後の整理作業で得られた出土遺物の鑑定結果や木材・土壌などの科学分析などの所見、歴史的な文献史料との比較検討などと併せて発掘調査報告書に取りまとめられます。きちんと行われた発掘調査は、その遺跡が持っていた情報を将来に引き継ぐための方法とも言えるかも知れません。
区では、開発事業者などに理解と協力を求めながら一つ一つの遺跡を保存活用できるように取り組んでいきます。

◆相場峻 氏
(日比谷図書文化館文化財事務室学芸員)
発掘調査では一般的に深く掘り下げるほど、古い時代の遺跡が発見されます。複数の時代の遺跡が同時に見つかることもしばしばあり、区の場合は江戸時代の遺跡がより古い時代の遺跡を破壊しているという場合も多いのです。

◆弥生時代の番町周辺
弥生時代の遺跡はなぜ番町周辺に分布するのでしょうか。そのヒントは、地形にあると考えられています。
番町周辺は、淀橋台と呼ばれる西から張り出している関東ローム層の台地の上に位置しています。一般に標高20m以上となる場所が多く、現在よりも海水面が高かった縄文・弥生時代にも陸地であったようです。さらにその台地を割るようにして多くの支谷(しこく)(大きな谷から枝分かれして続く小さな谷)が入りこんでいるため、水流があった可能性も指摘されています。
英国大使館跡も台地上で、東側に千鳥ヶ淵の谷、北側に五番町の谷と呼ばれる支谷が入り込んでいる地形になっています。同じ弥生時代後期の遺跡として知られる大田区の久ヶ原遺跡などとも似たような地形になっており、当時の生活環境として適していたと考えることができそうです。

問合せ先:日比谷図書文化館文化財事務室
【電話】03-3502-3348

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