文字サイズ
自治体の皆さまへ

自治医科大学附属病院 連携協働コラム(1)

8/42

栃木県下野市

■食事でうつ病を予防しよう!心身の健康を支える栄養素と食生活の秘訣
自治医科大学附属病院 管理栄養士 川畑奈緒

◆はじめに
春は気温の変動が大きく、自律神経が乱れやすい季節と言われています。自律神経が不安定になると、気分が落ち込んだり、不安感が増したりすることがあります。また、春は新生活のスタートとなり、新しい環境への適応にストレスを感じることも多いでしょう。これらのストレスや不安は、うつ病の原因となる可能性があります。近年の研究から、生活習慣(運動や食事)がうつ病などの精神疾患の発症や経過に影響を及ぼすと言われています。今回は、食事とうつ病の関連性、そして心身の健康を維持するための食生活の秘訣(ひけつ)を解説します。

1.食事がうつ病に与える影響とは?
食事は私たちの心身の状態に深く関わっています。食事の内容や量によって、うつ病のリスクが変動することがあります。食事がうつ病に与える影響には、以下のような要素があります。

《エネルギーの過剰摂取はうつ病のリスクを高める》
エネルギーを過剰に摂取すると、肥満やメタボリックシンドローム、糖尿病などを引き起こす可能性があります。これらの疾患は、うつ病の発症と関連していることが研究で示されています(1,2)。肥満がうつ病のリスクを上げるだけでなく、うつ病も肥満のリスクを上げるという報告もあります(3)。つまり、うつ病と肥満は相互に影響しあうと考えられます。
肥満を防ぐためには、以下の点に注意しましょう。
・食事のバランスを考える…主食、主菜、副菜の割合を適切に保つことが重要です。
・食べ過ぎない…満腹感を感じたら食事を止めるようにしましょう。
・間食や飲み物に気を付ける…甘いものやカロリーの高いものは控えるようにしましょう。
・消費エネルギーを増やす…適度に運動を行いましょう。

《栄養素の不足はうつ病の症状を悪化させる》
セロトニンは脳内の神経伝達物質で、ドパミン(喜び、快楽に関連)やノルアドレナリン(恐怖、驚きに関連)を制御し、精神を安定させます。うつ病になると、このセロトニンやドパミン、ノルアドレナリンなどの神経伝達物質が減少し、感情や気分のコントロールが難しくなります。また、食事から摂取する栄養素は、脳の機能や神経伝達物質の合成に関与しています。そのため、栄養素が不足すると、神経伝達物質の合成がうまくいかず、うつ病の症状が悪化することがあります。
2015年に公表された国際栄養精神医学会の公式見解のうち、うつ病に効果的な栄養素の主なものについて紹介します。ただし、これらの栄養素がうつ病に対してどの程度効果的であるかについては、まだ研究が進んでいる段階であり、確定的な結論は出ていません。

[1]ω-3(オメガスリー)脂肪酸
魚や亜麻仁(あまに)などに含まれるω-3脂肪酸は、脳の構成成分や神経伝達物質の合成に必要な栄養素です。ω-3脂肪酸が不足すると、脳の機能が低下し、うつ病のリスクが高まることがあります。特に、魚に多く含まれるEPA(イコサペンタエン酸)とDHA(ドコサヘキサエン酸)は、うつ病の予防や改善に効果があるという研究が多数あります。例えば、フィンランドの疫学研究では、魚を摂取する頻度の低い人の方が、頻繁に摂取する人に比べて、抑うつ症状を呈する可能性があるという結果が出ています(4)。

[2]アミノ酸
アミノ酸はタンパク質の構成成分であり、神経伝達物質の原料にもなります。このうち、必須アミノ酸は体内で作ることができないため、食事から摂取する必要があります。セロトニンの原料となるトリプトファンは、必須アミノ酸の一つです。複数の研究結果を統合し分析した結果、うつ病の患者さんは、血中トリプトファン濃度が低いことが多いということが報告されています(5)。トリプトファンは、チーズや卵、大豆製品などに多く含まれます。

[3]ビタミン
ビタミンは神経伝達物質の働きをサポートする栄養素です。うつ病と関連するビタミンの中で、不足しやすいものの一つが葉酸です。葉酸は神経伝達物質の合成に必要な栄養素です。うつ病の患者さんは、葉酸が足りないことが多いという研究があります(6)。葉酸は、緑黄色野菜や豆類、レバーなどに多く含まれます。
もう一つの重要なビタミンは、ビタミンDです。ビタミンDは脳の発達や機能に影響する栄養素で、低ビタミンD濃度がうつ病と関連していることが指摘されています(7)。ビタミンDは紫外線を浴びると体内で作られますが、食品からも摂取することが大切です。魚やキノコ、乳製品などに含まれます。

[4]ミネラル
ミネラルは神経伝達物質の働きをサポートする栄養素です。鉄や亜鉛などのミネラルが不足すると、神経伝達物質の分泌や受容がうまくいかず、うつ病のリスクが高くなることがあります。鉄欠乏性貧血と、うつ病やストレス症状との間に関連がみられたとした大規模調査があります(8)。鉄は、レバーや赤身肉、ほうれん草などに多く含まれます。

<この記事についてアンケートにご協力ください。>

〒107-0052 東京都港区赤坂2丁目9番11号 オリックス赤坂2丁目ビル

市区町村の広報紙をネットやスマホで マイ広報紙

MENU