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大川市長と津森国交省所長がトップ対談「渡良瀬遊水地を賢く活用しよう」(1)

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栃木県栃木市

渡良瀬遊水地は、ラムサール条約湿地に登録されたこの10年余で、治水と豊かな自然を両立させながら、スポーツなど市民の活動と憩いの拠点に役割が広がりました。さらに賢く市民の暮らしに活用しよう。大川秀子市長と、国交省利根川上流河川事務所(利根上)の津森貴行(つもりたかゆき)所長が、将来像と、洪水から守る流域治水をテーマに話し合いました。

――はじめに、渡良瀬遊水地との関わりをお話しください
大川:2010年に一市三町が合併して新生栃木市が誕生しました。渡良瀬遊水地は、広大な自然が脚光を浴びて市の「宝」になりました。しかし、当時市議会議長だった私にとって、ラムサール条約登録までの道のりは大変険しいものでした。
津森:私の関わりはまだ浅い状態です。約20年前、江戸川河川事務所の課長の時に、下流の立場から、洪水を貯め水利用の貯水もする治水・利水の役割をもっていると理解していました。本省の流水管理室長の時には、遊水地を含めた全国の多目的ダムの管理を担当していました。昨年から利根上の所長になり、歴史的な経緯と自然環境なども理解を深めることになりました。
大川:話しのはじまりは、合併の年に自然を守る会から出されたラムサール登録の陳情書でした。しかし、大事な治水の機能がどうなるのか心配の声も強く、説明会などは紛糾。議会では一年間の継続審議になりました。
議長になっての最大の課題。「自然を守りながら治水も守れないか」と考えました。確認するために、国交省や環境省に足を運びました。決定的だったのが翌年の3月11日。常任委員の議員たちと環境省の職員と協議のために永田町に向かい、地下鉄の駅で東日本大震災に遭ったのです。余震が続く中、何とか「登録後も治水工事はできる」と両立の確約がとれ、採択に至りました。登録後に会った治水派の代表の方が「大変だったな」と言ってくれたのが思いがけない言葉で、今でも思い出すと涙がでます。

■治水と環境の両立が出発点
――その治水と環境の両立、出発であり今後も目標ですね
津森:私は、遊水地が出来た歴史的な経緯と重みを、しっかりと認識しなければと思っています。約100年前、治水のために遊水地ができ、約50年前、調節池化して治水の機能を高め、約30年前に貯水池化して水利用の機能をもちました。
環境の目的・役割ももつようになりますが、登録以前の経緯を認識しておく必要があります。利根上では、2000年に遊水地の環境の将来像を「グランドデザイン」にまとめました。2002年に関係者による湿地保全の検討委員会を設立し、2010年には湿地保全再生の「基本計画」をまとめました。これらが下敷きとなる中、湿地登録の局面では、賛否両論の自己主張の応酬に終始するのでなく、関係者が協力して前に向かう関係を築けました。
その当時、利根上も議論の間に入って、関係する方々がこれからに向けて認識を合わせる、誓約をする関係が実現されました。そこでは、▽治水事業は何ものにも優先されなければならない課題▽掘削によって治水事業と湿地の保全・再生を両立させる▽それがラムサール条約が目指す「賢明な利用」そのものだ、と明記されました。すごく重みがあり、今後もこの原則で行動していきます。
大川:両立を国から明言してもらえ、私たちも安心できました。

■活発な活用が花開いた10年
――その上に、ラムサール条約の三つの柱「湿地の保全・再生」「賢明な利用」「交流・学習」が花開きました
津森:治水事業と保全・再生を両立させることは、「賢明な利用」そのものです。「保全・再生」では、掘削(32頁に関係記事)や(毎春の)ヨシ焼きを続けていくことが大切だと思っています。
「交流・学習」では、保全・利活用協議会を基盤にアクセスの向上、環境教育などが検討されています。私たちも、皆さんとともに長い目で見て取り組みを先につなげていきたいと思います。
大川:「賢明な利用」では、栃木市にも遊水地のヨシを使ったヨシズの生産者がおられます。温暖化の中、猛暑にヨシズが果たす役割は大きく、ヨシ灯りのイベントでは子どもたちにヨシの良さに触れてもらっています。また、利根上さんのご協力で市藤岡渡良瀬運動公園が活用でき、熱気球の係留飛行や自転車イベントも活発です。陸水空のスポーツが楽しめ、地域の活性化に繋がっています。

○ラムサール登録後10年のあゆみ
2012年7月 ラムサール条約登録・「わたフェス」初開催
2013年3月 震災で中断のヨシ焼きが3年ぶりに復活
2014年5月 天皇・皇后両陛下が遊水地・足尾を訪問
2015年9月 関東・東北豪雨で巴波川が氾濫
2018年4月 栃木市の「ハートランド城」が開館
2019年10月 台風19号で遊水地の貯留量が過去最大
2020年6月 遊水地生まれのコウノトリのヒナが初誕生
2021年4月 栃木市が熱気球の係留飛行を開始
2022年2月 栃木市側に人工巣塔を2基設置
2022年10月 谷中湖などが「恋人の聖地」に選定

「交流・学習」では、地元の小学生が学習や研究、発表を重ねており、市全体に広げたいですね。「保全・再生」で、ヨシ焼きが2年前に中止になった時、良質なヨシが育ちませんでした。後継者も含めて継続に努めます。

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