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湯前歴史散歩 下里御大師堂の墨書を読む(2)

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熊本県湯前町

■部材に記された恋文?
前回紹介した墨書とは別に、下里御大師堂からは左の墨書も見つかりました。長い部材に、縦一行に堂々と記されています。かすれて読みにくい部分もありますが、次のように読むことができます。

冒頭の「あら」は感嘆の言葉で「ああ」という意味です。「御こいしや」は漢字を当てると「御恋しや」となります。「百げさ」は女性の名前と考えられます。「上さま」は「うえさま」と読むこともできますが「うえさま」は将軍など身分の高い人に対して使われるので、しっくりとしません。推測ですが「上」は女の人の名前に添えて使われる「女(じょ)」の当て字ではないかと考えられます。漢字を当てると「百袈裟女」で「ももげさじょ(う)」または「ひゃくげさじょ(う)」と読むかと思われます。
全体を現代語訳すると『ああ恋しい百袈裟女さま、このように言っている者は、人吉から来た右田茂兵衛がこれを書きました。茂兵衛延宝四(1676)年二月二十七日』といった意味となり、右田茂兵衛から百袈裟へ宛(あ)てた恋文ということになります。右田茂兵衛の年齢を記した墨書もあり、彼は当時19歳の若い職人でした。
実は御大師堂からは、同様の恋文のような落書きが多数見つかっています。書き手には、奈須又左衛門や佐次右衛門などの名前が見え、相手の女性の名前としては「千筆上」「虎上」「松亀上」などの名前が確認できます。
はたして、これらの恋文は切々たる恋心をつづったものだったのでしょうか。それとも、若い職人同士で冗談交じりに書き合ったものだったのでしょうか。今となっては知る由(よし)もありませんが、今も昔も変わらぬ人の心を感じることができます。

教育課学芸員 松村祥志(しょうじ)

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