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詩を楽しもう 清岳こう

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熊本県玉東町

清岳こう文庫からおすすめの詩人を紹介します

◆高良留美子
電話をすると、だいたい、氏は怒っています。怒り狂っています。氏を想う時、私はリリトの名を思わずにはおれません。むろん、リリトが女性解放運動の象徴であるという単純な発想からではありません。何といってもご本人からたびたび伺う少女期の思い出を笑いながら聞きつつ、どうしてもアダムの手から出奔し、神をも天使たちをも罵り止めなかった女性の姿と重なるからです。
「姉の日記に、留美子は狂暴である、と書かれたの。狂暴って。家の脇の雑木林にあった木の枝を切って、振りまわしていたの。もちろん、顔じゅう真っ赤になって苦しむ羽目になったわよ。その木、漆だったの。」
自らを母殺しと標榜し、妹は(母の溺愛の結果)殺されたと明言してはばからない人。第一次世界大戦中、アメリカに留学し、第二次大戦後、国会議員として活動していた母。その苦悩を理解し、母なしには長く生きられなかった妹への哀惜をいっそう深めつつ、なお、その冷徹な自己分析は止むことがないのです。まず、文学の出発点に、自分自身への厳しいまなざしがあります。その厳しさゆえに苦しむと分かっていても、漆の枝を手放すことはなかったのです。当然、安易に、差別に、抑圧に、加害に、目をそらすことはできせん。それゆえに「神々の序列からはじきだされ」た「山の神」への豊かな讃歌も生まれるのですが。さらに、『わが二十歳のエチュード』(學藝書林)、みずみずしい感性で綴られた日記でも静かに思索を巡らせています。「弱い女のほうが幸福でいられる。弱くない女、弱くありたくない女は不幸である。」卓見です。脱帽です。しかし、この種の「幸福」は氏にとって偽物でしかないのです。
(6月号へ続く)

▽推薦詩篇
・「広島」『その声はいまも』
・「夢の交差点で-鄭京黙(チョンキョンモク) 久保覚に」

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