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【連載】昭和村の歴史と文化~第4回~

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福島県昭和村

昭和村文化財保護審議会委員長
菅家 博昭(大岐)

◆湿原という記憶装置
只見町教育委員会が2014年に町内大曽根湿原、2015~2016年に大谷地で、ボーリング調査を行い、花粉分析・年代測定・珪藻分析を行い、各湿原の周辺環境の植生変遷の復元をした(『只見の湿原 その生態と歴史』只見町ブナセンター、2018年)。大曽根湿原は3万3千年から6千年前は最終氷期でも比較的温暖な時期を経て最寒冷期(2万年前)を含む。東北南部の山岳湿原は1万5千年前になると降水量が増加し泥炭層が発達するが、大曽根湿原は6千年前からとなっている。大谷地は1万年からの情報が得られ7千年前から泥炭が安定して堆積していた。
花粉分析からは4万5千年前から1万6千年前の時期は針葉樹と落葉広葉樹の混交林、その後の寒冷化で落葉広葉樹が後退し、亜寒帯性針葉樹林となった。最終氷期が終わる1万年前から7千年前はブナ属が増加し、サワグルミ属、クルミ属、コナラ亜属などが分布を拡大。クルミ属が減少しトチノキ属樹木が優先。その後はブナ属・コナラ亜属の落葉樹林が成立。

歴史民俗博物館を経て、現在は学習院女子大の工藤雄一郎氏は、猪苗代湖西岸丘陵地の環境復元に取り組んでいる(「赤井谷地における古環境調査-福島県笹山原遺跡の生態系史復元を目指して-」2019年~)。工藤氏は、佐々木由香氏とともに2月5日に福島市の文化センターで川俣町の縄文中期の前田遺跡の解説の講演もされた。
さて、3月11日に下中津川の昭和村公民館2階研修室で、「令和4年度 矢ノ原湿原等調査報告会」が開催された。オンラインで報告参加された東京都立大学大学院の渡辺樹(たつき)氏の「矢ノ原湿原堆積物からみた火山噴火の歴史~約10万年間の記憶~」は2022年夏に行ったボーリング調査の結果の中間報告であった。
先行研究として、明治大学地理学研究室の叶内敦子氏の「福島県南部・矢の原湿原堆積物の花粉分析による最終氷期の植生変遷」(『第四紀研究』27(3)、1988年)がある。同論文はPDF10枚がインターネット上で公開されている。南湿原でボーリング調査、北湿原で火山灰の採取をしている。これを踏襲し、渡辺氏は2カ所のボーリング調査を実施し火山灰編年学による分析をした。
火山噴火で飛来する火山灰・軽石・スコリアなどの堆積物の火山ガラス・鉱物の分析、放射性炭素年代測定などを実施された。
南湿原の土層には12枚の火山灰層が確認され現在も精査中である。叶内氏の1988年当時に8万年前と考えられていた火山灰は、現在は9万5千年前に比定される。しかしいちばん下層の火山灰は8万5千年前~10万年前と推定されている。
また新しく十和田・立山・御岳・姶良(鹿児島)など遠方の火山灰と、浅間・榛名・赤木(群馬県)など近隣の火山灰も確認された。
北湿原の掘削地点は3万年前からのデータが得られており、形成・成立した年代が異なる可能性があるとした。
尾瀬や駒止湿原にはニホンジカが6月に出産し冬は移動する、ということがわかっている。イノシシやクマも湿原に集まる。こうした立地を旧石器時代~縄文時代早期の人々は利用している。
※詳しくは本紙をご覧ください。

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