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自治体の皆さまへ

シリーズまち・ひと・しごと # 51(2)

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茨城県利根町

■書く 伝える 繋いでいく
作家 白井(しらい)かなこ(白井カナコ)さん

▽作家を目指したきっかけを教えてください
目指したというよりも、書くことが好きで、公募を見つけるととにかく一等賞を取りたい一心で書いて。そうするうちに幸運なことに、本を出せるようになりました。自分にできないことを引いていって、唯一残ったのが書くことだったので、しがみついたんですよね。

▽作家になるまでの道のりを教えてください
中学生くらいのころから、いつか物語を書きたいなあと思いつつ、あらすじを考えることしかしていませんでした。それが大学の卒論で、100枚近い論文を書いたことで、文章を書くということに自信がつきました。でも会社に勤めるようになって、今度は忙しくて書けない。
そんな中、夏のある休日、布川神社の臨時大祭の山車(だし)を引く声が聞こえてきたんです。まだ寝ているときに。そしたら頭の中で、小学生の男の子が夏祭りの日に、お獅子(しし)と話す声が聞こえてきて。その会話を枕元に置いていたネタ帳に書きなぐった後、それを基に初めてまとめた童話が、企業のコンテストで入賞して。アンソロジーの非売品の1冊の本になりました。全国の児童養護施設に寄贈されたそうです。デビューにはつながらなかったのですが、ああ、私、書いてもいいんだなって思いました。それから今度は、大人向けの恋愛小説を書いてみてって、ある方に言われて、初めて書いて公募にチャレンジして…落選したんですが、編集さんに「今度新しく女性向けのレーベルができるから、書き直してチャレンジしてみませんか?」と声をかけていただいて、それで『真夏の風船』でデビューしました。

▽朗読のライブをされていたとか?
柏のジャズバーでマスターの出すテーマを元に、2カ月に一度、短編小説を書き下ろし、ミュージシャンの即興演奏とともに作者自ら朗読するライブを7年間開催しました。柏のワインバーでは、画家の描いた1枚の絵画からインスパイアされた物語を書き下ろし、役者が朗読するといったライブを行い、他にもご縁があって朗読のライブをいくつか…テーマをいただくことで、新しい視点で物語を書けましたね。あと、朗読劇に原作を提供したこともあります。

▽物語を書く上で、難しいところや楽しいところは?
キャラクターが頭の中で会話を始めて、動き出して、それを追いかけるようにキーボードに打ち込んでいくのはとても楽しいですね。難しいのはキャラクターが動いてくれないとき。そんなときは動いてくれるまで、ほかのことをします。エンタメに触れて引き出しを増やすとか。
小説は「行間を読む」なんて言いますが、漫画のノベライズの時には、漫画のコマとコマの間まで考えて書いていました。でも、細かく書き過ぎでもダメで。私は細かく描写しすぎて、編集さんに削られることもあります。
ドラえもんの『南極カチコチ大冒険』は、想像の世界での物語なので、風景描写が特に苦労しました。映画の中の空想の建物やそこでのシーンを、文字だけで表現するのは本当に大変で。何度DVDの一時停止を押したか。ビデオテープなら切れていました(笑)

▽これまで読んできた本の中で、人生で一番の本を選ぶとしたら何を選びますか?
アーシュラ・K・ル=グウィンの『ゲド戦記』も大好きですが、パウロ・コエーリョの『アルケミスト』もとても好きです。哲学的で、異国の旅人になったような気になれて、チャレンジ精神がこう、フツフツと。何かの節目の時に読むと良いと思うし、何度も読み返したい本です。

▽利根町で思い出の場所を教えてください
布川神社のそばの、旧布川小学校の校庭です。あの桜たちが好きです。祖父が当時の布川中学校のPTA会長だった時に、生徒たちと植えたと聞いているので、樹齢70年以上ですね。
桜の花の季節には必ず見に行きます。いったいこの桜は、どれだけのドラマを見守ってきたのかと思うと、胸に迫るものがあります。
蛟もう神社も小さなころから毎年初詣に行く、特別な場所です。例大祭「ばかまち」も、何度か見ています。夜に行われる厳かな神事、ホントは内緒にしておきたいけれど、一見の価値ありです。

▽今後の展望について教えてください
童話もデビュー作も、昨年出版した『花屋カフェLune(リュンヌ)のスペシャリテ』も、私が書くための芯となっている「日本がかつて戦争をしていた」という事実を忘れないで、悲惨な記憶だけどちゃんと次の世代へ繋げて過ちを繰り返さない、そんな思いを詰め込みました。
今、出版に向けて準備中の児童書も、まさにそういった思いを込めているんですが、実際に遠くて近い国で戦争が起きていて。日本の子どもたちもその戦争や、他にもミサイルの飛来にもちろん恐怖を感じていますが、だからといって、過去のことを知らなくていいわけではなくて。その辺り、いたずらに怖がらせたくないな、でも伝えたいなって、バランスを考えて模索しながら書いています。
私は書くことで癒されています。書き出すことで心の中が整理されて、デトックスできるという面もあるんですよね。なので、たとえ誰かに届かないとしても、私はずっと何かを書き続けるんだと思います。

利根町の豊かな自然や、伝統的な行事の風景からインスピレーションを受けて生み出される作品の数々。白井さんは自身の作品を通して、大切なことを次の世代に伝え、繋ぎ続けていきます。

※ノベライズとは? 映画や漫画など、小説以外の作品を小説の手法で表現すること
※「蛟もう神社」の「もう」は環境依存文字のため置き換えています。正式表記は本紙またはPDF版をご覧ください。

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