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古河歴史見聞録

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茨城県古河市

■たまげた話 ~古河「人魂」雑話~
◇ビックリしたら「たまげた」
昨年、北陸のあるお寺へ、接骨の話を聞きに行った。なんでも大昔、命を助けてあげた河童(かっぱ)から伝授された接骨の技術を今に伝えているのだという。ちょっとビックリしたのは、このお寺の本堂には、その徳をたたえて作られた、その家の先祖と河童のツーショット木像が祀(まつ)られていたことだった。
こんなふうにビックリすることを「たまげた」とも言うが、漢字で書くと「魂(たま)消(げ)た」。魂(たましい)がどこかへ消えてしまったがごとく、まるで放心状態になるのである。
そんな「魂」の姿かたちを、わたしたちはどのように見てきたのでしょうか。

◇「タマセ」と呼んだ人魂
江戸時代の辞典『倭訓栞(わくんのしおり)』によれば「たましい」という言葉は「玉火(たましひ)」という意味を持つのだとしています。火の玉のように燃え上がる炎が、生命力を感じさせたのでしょう。それは人魂(ひとだま)のことを、古河ではタマセ(たましい)と呼んでいることからも「魂」そのものを火の玉のようなものとしていたことがうかがえます。

◇「人魂」の色と形
さて、人魂と聞いて思い出すのは、明治14年のこと。古河で「化物(ばけもの)発見御届」なるものが、警察署に提出されたという新聞記事。毎晩8時ともなると、ある建物の屋上に青い火の玉らしきものが出るのだという。三つ目の大入道だ、一つ目の小僧だ、とにかく化け物だ、と言っては、警察でなんとか討ち取ってほしいと願い出たというもの。青い炎のかたまりには、いいしれぬ不安がまとわりつくものだったのでしょう。
そういえば大正8年生まれの男性が、昭和10年の出来事として、次のように人魂について語ったことがある。
「墓場んとこへ赤い火がすーっと、ゆっくり、全部見てたら、(寺の)本堂のほうへ行っちゃった。来た時にね、蚊取り線香みたいなの。くーと、確実に見たんだよ。(中略)「あっ、火の玉だ」って。びっくりして、2階から「たいへんだたいへんだ」って、みんなが寝てる部屋へ「火の玉だ」って言って「火の玉見たんだ」って言ったら、お袋が「青かったか、赤かったか」って。「赤かった」って言って「したら女の子が来るよ」って言って。そしたらなになにのほうの女の子が次の日来たんだよ、死体で。そして男は緑なんだって。そいで細いのが子どもなんだって。「よく知ってんな」って言うと「みんなそうなんだ」って言うんだ。大人のは大きいんだって。大きくてまっすぐ行っちゃうんだって。ゴーって行っちゃうんだって。」
人魂には色や形、大きさ、いろいろあるもんだなと。しかし、これは珍しい話でもなさそうで、各地の民俗誌をひもとくと、老若男女で、色や形や音、家の中に入ってくるときの入り口にまで違いがある。見ると見ないとでは、その人の将来にも影響すると伝えているところもある。もちろん今更将来を考えることのないアタクシには、なんも関係ない話ではありますが。
それにしても最近は人魂の目撃談も少なくなった。きっと闇夜を失った現代は、人魂にとって住みづらい世の中なんでしょうなあ。エネルギー不足に悩んだら、人魂でも灯(あか)りにしましょうか。そんなこと言ってると「あいつはたまげたヤツだねぇ」って。褒められてんだかさっぱり分からない。いつだって脱力、いつだって放心状態なもんだから。

古河歴史博物館学芸員 立石尚之

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