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古河歴史見聞録

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茨城県古河市

■落款印
書画などの作品の左側によくある署名と印影(捺印(なついん))の名称をご存じですか? そう、落款(らっかん)とか落款印って言いますよね。因みに作品の右肩にある印影は引首印(いんしゅいん)というのですが、落款とは「落成款識(らくせいかんし)」を省略した語なのです。「落成の款識」と書いたほうが分かりやすいでしょうか。「落成」は文字通り作品の完成であり「款識」はその完成の証しとしての作者による自筆の署名を意味しています。そして作者自身の作品であることを示す印影もまた落款という範疇(はんちゅう)に含まれるのですが、これを落款とは区別して落款印とも呼んでいます。今月号ではその落款印を取り上げます。
まず落款印とは具体的にいかなるものかといえば、姓名印((1))とか雅号印(がごういん)((2))が一般的と言ってよいでしょう。また、落款印は一顆でも二顆でもよく、二顆の場合は姓名印・雅号印の順に押すのが基本で、さらには白文印と朱文印を用いるのが慣例とされています。姓名印は白文を用いるのが一般的なようですから、雅号印は必然的に朱文が多いということになります。姓名印が何故白文なのかといえば、中国の秦漢以来の官私印が白文であったことに由来するのだそうです。
次に落款印のサイズですが、特に決まりはありません。二分角(6ミリメートル)から二寸五分角(7.5センチメートル)くらいまで、大小さまざまな規格があります。作品の大きさや文字の大きさ、さらには余白の広さなど、書家等はその時々によって、最適な大きさの落款印を使い分けているのです。
さて、書画などの芸術作品における落款印は、その巧拙(こうせつ)によって作品の評価が左右されることになります。すなわち芸術作品の一部を構成する重要なアイテムなのです。ですから、しばしば書家等は自身の落款印の制作を篆刻(てんこく)家に依頼することになります。
篆刻美術館は書家の多くの自用印(落款印ほか)を収蔵しています。そのほとんどは篆刻家の手に成る刻印なのですが、なかには刻者(篆刻家)不明の刻印も含まれています((3))。篆刻家が書家等に落款印などを刻す場合、印材の側面に自刻である旨を刻す(側款(そっかん)のが一般的なのですが、篆刻家が故意に側款を刻さないことも間々あるようです。こうした側款のない刻印は刻者不明ということになるのですが、側款を刻さない理由の一つには、印材の再利用にあるようで、篆刻家の配慮なのだそうです。すなわち、自分の刻印が気に入らなければ、印面を削って他の篆刻家が刻し直すことができるようにとの配慮です。また高価で貴重な印材には、なるべく傷を付けないという意味合いで側款を刻さないこともあるようです。したがって、当館収蔵の刻者の分からない刻印のなかにも、篆刻家が制作したであろう優品が含まれています。
篆刻美術館では、こうした落款印も含めた刻印を企画展で紹介します。当館では未展示の刻印群です。ご高覧ください。

(1)石井雙石刻「塚幹印信」
(2)飯田秀處刻「如流」
(3)刻者不明「令吉之印」「三郊」
※詳しくは本紙18ページをご覧ください。

○企画展「収蔵品展V」
期間:9月23日(土)~11月12日(日)

古河街角美術館学芸員 臼井公宏

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