文字サイズ
自治体の皆さまへ

第30回とうま蟠龍まつり(2)

2/43

北海道当麻町

太陽が沈みはじめ、辺りが次第に暗くなってきた頃、再びパラパラと雨が降り始めた。霧のような細かな雨。服はしっとりとぬれてきたが、会場の熱は冷めない。
午後6時45分、30周年特別企画「OKI DUB AINU BAND」による演奏がスタートした。センターに立ち、樺太アイヌの伝統弦楽器「トンコリ」を演奏する加納沖(OKI)さんは、当麻町在住。オープニングトークで「こんばんは。中央6区の加納です」とあいさつし会場を沸かせた。バンドは2006年の結成以降、大規模な音楽フェスティバルにも出演するなど、国内、国外で高い評価を得ている。OKIさんは地元とのつながりも大切にしており、小さな音楽イベントなどにも率先して出演し当麻町をPRしている。今回も「地元の祭りを盛り上げたい」という熱い思いで実現した。ベースとドラムにアイヌの伝統音楽を融合させた全く新しい音楽でありながら、レゲエ、ロックのリズムを感じさせ、手拍子をする人、リズムにのる人など…会場が一体となっていた。最前列では、バンドが奏でる音に併せて優雅に舞う人も。あっというまの30分だった。
しかし、雨は次第に強さを増していく。バンド演奏が終わり、次の演目の準備をしようとしたその時、バケツをひっくり返したようなどしゃ降りに、一同、ぼうぜんとなった。つかの間の沈黙。「本当に最後までできるのか…?」一瞬の沈黙を破ったのは、蟠龍太鼓保存会のメンバー。「やりましょう!」と、急きょ、トラックの下に本部用テント2台を移動し、宮太鼓11台を準備。30回を記念した特別な映像がまとまーる壁面に流れた。映像は、洪水が絶えなかった町を龍神が救うというもの。龍が目覚めると、その映像に合わせて太鼓の演奏が始まった。
2頭の龍がゆっくりと桶胴太鼓に歩みよると、蟠龍太鼓保存会による「龍神」が始まった。次第に力強くなるバチさばき。この日のために切磋琢磨し音に磨きをかけてきた。太鼓の演奏に、楽譜はない。曲を構成するリズム、速さ、強弱、そして腕の振り方や腰のおとし方など、すべてが口頭で伝えられることに、難しさがある。今年は蟠龍まつり30回を記念して、毎年2曲のところ「飛龍流し打ち」という幻の3曲目が披露された。雨をものともしない、迫力ある太鼓の音。疾走感あふれる演奏は、大人も子供も魅了する。雨を忘れてしまう熱い演奏だった。
再びまとまーる壁面に目線をあげると、当麻音頭の音とともに30年前の蟠龍まつりの映像が始まった。もともと「産業まつり」として、当麻町の夏を彩っていた祭りは、昭和61年に「鍾乳洞まつり」に名前を変え、より観光PRメインの祭りとなった。この鍾乳洞まつりが、平成5年に「蟠龍まつり」となり、今に至っている。そんな蟠龍まつりもいよいよフィナーレ。龍に願いが通じたのか、先ほどの大雨がウソかのようにやみ、いよいよ龍踊りが始まろうとしていた。
ドラの音が会場内に響きわたる。太鼓・チャッパ・大小あるドラのリズムに合わせ、四方からたかれた煙の中から現れたのは、蒼き龍。10人の持ち手からなるこの龍は、9年前にリニューアルされ、腹にはアイヌ文様が。これは先ほどのOKIさんがデザインしたもの。龍は、あたりをゆっくりと見渡したかと思うと、ふわっと浮き、一気に会場内を駆けめぐった。緩急つけた龍踊りは、龍の頭や体を上下に大きく振り上げて龍の迫力を表現する。10人の息が合って初めて成功する龍踊りの演舞。躍動感あふれるその姿に、見ている人はくぎ付けとなった。
龍踊りが終わると、辺りはしんと静まり返る。いよいよ花火、祭りのクライマックスだ。雨は小降りながらも降り続けていたが、見ている人たちの顔は晴れやか。ひとつ、またひとつと夜空に打ちあがる彩り豊かな夏の風物詩を見つめている。ふと足元に目をやると、地面にはもうひとつ花火が。先ほどの大雨でできた水たまりに、花火が反射しているのだ。天と地、同時に二つみられる花火は後にも先にも今日だけかもしれない。記憶に残る大雨とともに開催された30回目の蟠龍まつりだが、会場は多くの人の笑顔であふれていた。当麻の熱い一日は、夜空に咲く大輪の花とともに締めくくられた。

<この記事についてアンケートにご協力ください。>

〒107-0052 東京都港区赤坂2丁目9番11号 オリックス赤坂2丁目ビル

市区町村の広報紙をネットやスマホで マイ広報紙

MENU