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360年の生命(いのち)を紡いで(3)

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埼玉県三芳町

■世界に貢献する落ち葉堆肥農法
ヤマ(平地林)を守り育て、落ち葉を堆肥に活用して土壌を豊かにする「武蔵野の落ち葉堆肥農法」は地域の農業だけでなく、世界に貢献し得る可能性を秘めています。砂漠化を防ぎ、SDGsの達成に貢献するなど…。当農法が秘める可能性に迫ります。

プラネタリー・バウンダリー(地球の限界)という言葉を知っていますか。「地球の健康状態」とも言える下の図で真ん中の青い円の中に入っていれば健康な状態ですが、超えている領域は危険、赤い枠を超えてしまうと不可逆的で環境に壊滅的な変化を起こすと言われますが、すでに絶滅の速度と窒素・リンの項目が赤い枠を超えてしまっています。
これに対して武蔵野の落ち葉堆肥農法は、生物多様性を育み、多量の化学肥料を必要としないことから、地球環境に寄り添い、持続可能な農法であることがわかります。また、GIAHS認定基準(本紙P5上部)からも、様々な面でSDGs達成に貢献する可能性を見ることができます。
この優れた農法は、江戸(東京)という大都市近郊で360年以上にわたり継承され続け、現在まで開拓当時の特徴的な景観を維持してきました。
現在、首都近郊にもかかわらず、このような農法、景観を残していることは珍しく、GIAHSで唯一の首都近郊農法となっています。

◆宣化・武蔵野共同宣言
令和元年、武蔵野地域は同じく都市近郊のGIAHSである中国の「宣化のぶどう栽培の都市農業遺産」と「宣化・武蔵野」共同宣言を行いました。
互いに都市に近い農業遺産であることから、開発需要の増大や担い手の減少など共通の課題について意見交換を行うなど、連携を密接に図り、世界の都市近郊における農業モデルとなり得る知恵や工夫を共有しています。

◆世界への貢献
世界的な重要性を示してきた本農法は、世界中から注目されています。これまでにアフリカ・中国・アメリカなど発展途上国から先進国まで、海外から幅広く視察を受け入れてきました。
また、世界的な課題である砂漠化に対しての有効性も示しています。独立行政法人国際協力機構(JICA)によって行われた、南米チリ、サンペドロ村で砂漠化防止の農村計画では、当農法が参考にされ、成果を上げています。
武蔵野の落ち葉堆肥農法は、SDGs達成はもとより、世界の都市近郊農業のモデルとなり得る可能性、世界的な課題を解決する可能性を秘めた農法なのです。

■チリでの砂漠化の防止
○参考にした土地利用デザイン
(1)道に近いところに住居を立て奥に向かって農業ができる
(2)奥の尾根筋に防風林を造成
(3)植林と農業経営の組み合わせ

■「武蔵野の落ち葉堆肥農法」の評価
欧米では堆肥に牛糞など動物由来の原料を混ぜ込むのが普通である中、武蔵野地域の落ち葉堆肥システムは、農家が平地林で得た落ち葉(植物由来)の原料主体で堆肥を作っている点に特徴があります。また農家一軒分の土地を短冊形にし、屋敷、畑、平地林を規則正しく配置することで、地域全体として規則正しい短冊形の土地が何重にも反復する珍しい景観を生み出している点も評価されました。
江戸時代、生きるために農家に土地を平等に割振り、各農家が独立して営農できるようにした仕組みが、360年以上経った現在、国際社会で高い評価を受ける結果になったわけです。この仕組みを10世代以上にわたって懸命に維持してきた各農家の努力にも畏敬の念を覚えます。

国連食糧農業機関世界農業遺産プログラム
科学アドバイザリー会合委員
八木信行さん(東京大学大学院教授)

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