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【特集】ピアノ調律師が紡ぐ音の世界(3)

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宮城県栗原市 クリエイティブ・コモンズ

ピアノ調律師として全国各地を渡り歩き、数多くのピアノを調律している只野さんに、話を伺いました。

只野 孝行(ただの たかゆき)さん(築館西町)

◇ピアノとの出会い
私が初めてピアノを目にしたのは、小学校の入学式でした。先生が、黒くて大きな楽器で校歌を奏でているのを見て、あれは一体何だろうと思ったのを覚えています。
ピアノがより身近な存在になったのは、中学生の頃です。当時は子どもの数が多く、教室の数が足りなかったため、音楽室も普通教室として使われていました。
ある時、教室にあるピアノが調律されているときの音を耳にしたのですが、自分にはあまり美しく聞こえませんでした。この出来事をきっかけに、自分でもっと美しい音を作りたいと思うようになり、ピアノ調律師を目指しました。

◇調律の喜び
ピアノの魅力は、豊かな表現力やパワフルさ、繊細な響きにあると思います。その魅力を、作業を通じて最大限に引き出してあげるのが、私たちピアノ調律師の仕事です。
魅力を引き出すための作業は、大きく分けて3つあります。ピアノに張られている弦の張力を調整する調律、ピアノの弦を叩くハンマーのフェルト面を調整する整音、鍵盤の弾き心地などを調整する整調です。
これまで、世界的なコンクールにも出場しているピアニストが使用するコンサートピアノの調律から、一般家庭にあるピアノの調律まで幅広く手掛けてきましたが、特にやりがいを感じるのは、子どもが弾くピアノを調律したときです。
子どもは音の違いを敏感に感じ取り、調律した音を聞いた時の感情が表情ですぐに分かります。その子がこれだ、と思う音になっていると、とてもおいしい食べ物を食べたときのような、なんともうれしそうな顔をしてくれるのです。その表情を見ると、私自身、とてもうれしくなりますし、心の中でガッツポーズをしてしまいます。
自分が作り上げた音を理解してくれる人がいること、そのピアノを弾いた人が笑顔になってくれること、これはピアノ調律師にとって何よりの喜びだと私は考えています。

◇ピアノとの対話
ピアノを数多く調律すればするほど、その奥深さにますます引き込まれていきます。
ピアノをもっと知りたいという思いから、ピアノの構造に関する勉強を毎日5時間ほど、20年以上にわたって続けました。分解して、組み立てて、また分解して、という作業を続けていくうちに、ピアノ自身が、この部分はこう直した方がいいなどと教えてくれるようになりました。
もちろん、実際に声が聞こえるわけではありません。長い時間向き合っているうちに、どこをどうしたら良いのか、自然に分かるようになったのです。

◇見える調律を目指して
ピアノ調律師は、陰の仕事です。人の目に触れにくい役割を担っているからこそ、作業に対する集中力と、音に対する探求心が何よりも大切です。音は正直なので、集中力を切らして作業した部分は、必ず表に現れます。
また、ピアノ調律の道には終わりがありません。納得いくものができたと思っていても、改めて聞き直してみると、新たな改善点に気づきます。音と真摯(しんし)に向き合うことが、ピアノ調律師には必要です。
調律は見えるように、整調は聞こえるように、というのが私の目標です。見えないものを感じ取ってもらえるような音作りを目指して、これからもピアノと向き合っていきたいです。

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