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自治体の皆さまへ

特集 「伝える」視覚障害者を音で支えるボランティア(1)

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東京都江戸川区 クリエイティブ・コモンズ

区内では、えどがわボランティアセンターに登録しているだけでも163団体、3600人もの方々がボランティアとして活動しています。幅広い活躍の場の中から、視覚障害者の情報アクセスを支える音訳ボランティアの方々の活動をご紹介します。

◆“墨”から“音”へ
皆さんは「墨字版」という言葉を聞いたことがありますか?例えば、今まさに皆さんが手にしている冊子が、「広報えどがわ」の“墨字版”。紙にインクで文字や図版を刷った出版物のことを指す言葉です。

では他にどんな“版”があるかというと、「広報えどがわ」の場合は紙の表面にエンボスと呼ばれる凹凸で点字を表した「点字版」、それから、全文を朗読によって音声化した「音訳版」の二つ。どちらも視覚障害のある方に区の情報をタイムリーにお届けする重要な役割を担っています。

このうち、月2回発行する音訳版の朗読を担ってくださるのは、二つのボランティア団体の方々です。墨字を、視覚障害のある方に伝わる形に変えるための朗読作業「音訳」の現場をのぞいてみましょう。

◆「ナヤマズニ」?それとも「ナヤマズニ」?
「一人で悩まずにご相談ください。問い合わせ先は、いのちの支援係。電話、レーサン、ゴーロクロクイチ…」

中央図書館の3階にある、3畳ほどの録音室。広報えどがわ音訳版の令和5年12月15日号で催しもの記事の朗読を担当する「音訳百舌の会」の山田緑さんがマイクに向かってリハーサルをしていると、すぐ横に座っているメンバーの手がスッと挙がりました。

「2拍目だけ上がる『ナヤマズニ』ではなくて、3拍目も高く『ナヤマズニ』って感じでいきましょうか」

百舌の会の朗読作業は、3人一組が基本です。読み手が朗読している間、校正者と呼ばれる2人は読みの間違いや読み飛ばしがないか、唇が弾ける音や息継ぎ音などの雑音が混じっていないか、耳をそばだててチェック。気が付いた点を読み手に助言し、録音の質を高めていくのですが、難しいのが発音にまつわる校正です。

音訳作業は、公共放送をお手本とした、いわゆる標準語での発音が基本。しかし、例えば江戸っ子が「東」を「しがし」と発音する、関西出身の方が「ファックス」の「ク」を母音の「ウ」までくっきり発音する、あるいは「先生」を読む際に「せんせい」と単語の頭が高くなる―というような方言の影響、あるいは個人の発音の癖は、誰でも多かれ少なかれ無意識のうちに出てくるもの。指摘を受けてもその場で修正するのは簡単なことではありません。

さて“ナヤマズニ”の山田さん。仲間の発音をお手本に10回ほどその箇所を繰り返して、いざ本番へ――。

「一人で悩まずにご相談ください」

無言のまま小さくうなずく校正者の2人。“OK!”の合図です。

◆コロナ禍を超えて
コロナ禍のさなかも、音訳版を必要とする方のために、音訳作業が途切れることはありませんでした。しかし密閉された録音室に人が寄り合う録音方式はまさに“三密”。感染対策として、各自が自宅で録音し、持ち寄ったデータを編集するリモート体制を構築するなどの対応を迫られました。この仕組みは今でも有効に活用されていて、中央図書館には集まらず、自宅で朗読することで作業に参加するメンバーも3分の1ほどいます。

一方で、「やはり一堂に会して読むのが好き」という方が多数派で、先ほどの山田さんもその一人。

「今日みたいに思いもしなかったところをその場で指摘してもらうと、『面白いなー!』って感じますね。だって普段の生活でこんな風に発音の話をすることなんてないでしょう?集まって作業していれば、校正の担当の人以外にもいろんな人に意見を聞くこともできるし、他の読み手のリハーサルも聞こえてくるし、とっても刺激になるんですよ」

この日の担当記事を全て読み終えた山田さんが、はつらつとした笑顔を見せます。

◆笑うわけにはいかない
音訳団体の役割には、「広報えどがわ」のような不特定多数に向けた定期刊行物の音訳の他に、利用者の希望する本を個別に対面で朗読する、録音して提供するという活動もあります。

この日、視覚障害のある内藤孝子(ないとうたかこ)さんが音訳ボランティア団体の「風の会」に対面朗読を依頼したのは、作家・酒井順子(さかいじゅんこ)さんによるエッセイ集です。

「酒井さんの作品は音訳データベースでも提供されているんだけど、この本はなかなか音訳されないから、待ちきれなくって」と内藤さん。

内容は、加齢に伴う容姿の変化などのやや際どい話題を、軽妙に皮肉交じりでつづったもの。風の会の原和子(はらかずこ)さんの朗読で痛烈な酒井節が炸裂すると、内藤さんが「フフフ」「アハハ」と声を挙げて笑います。

しかしその間も原さんの朗読は少しも揺らぎません。笑ってしまうことはないのでしょうか。

「聞いていただいている途中に、読み手が笑うわけにはいかないんですよ」―休憩時に水筒のお茶で喉を潤しながら原さんが教えてくれました。

「そもそも今回のように当日に初めて読む本の場合はそんな余裕がありません。一定のペースで読んでいても『この漢字は訓読み?音読み?』『次の段落との区切りは長めがいいのかな?』『ああ、つっかえちゃった!』と頭の中は大忙しですから」

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