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上郡町の偉人 大鳥圭介

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兵庫県上郡町

「鵬程万里」第四十七回 中川由香
学習院長圭介身分を超えた真のエリート教育

明治十九年四月、元老院議員の圭介は、学習院の学長を兼務しました。三代目の学長として、二十一年七月まで学習院長の任にありました。二十年四月には、圭介は華族女学校学長も兼任します。
学習院は元々公家の教育機関で、京都御所門前にありました。明治になり、公家は旧藩主と共に華族となります。明治十年に華族学校が開校し、明治天皇から学習院の名を賜りました。現在の学習院大学です。また明治十八年に華族女子の本格教育機関、華族女学校が開校します。同校は三十九年に学習院女学部となります。男子の学習院、女子の華族女学校を共に圭介は総括しました。
学習院は華族教育を目的としつつ、士族や平民の入学も許可していました。政治、行政、司法、軍事の各分野で活躍する人材の養成が教育方針でした。十九年、神田錦の学習院校舎が火災に遭います。書籍教材も消失しました。圭介は移転や教材の補充に尽力しました。校舎は旧工部大学校へ移転されます。工部大学校は東京大学工科大学に合併されており、博物場の美術品や物理化学実験道具は学習院へ譲渡されました。圭介の手配で、工部大学校でお雇い外国人教師たちが当時最先端の教育に使用していた教材や備品を、学習院が入手することになりました。
明治二十一年六月、圭介は東京学士会院で学習院長として講演しました。「外国人と相対するのに英語や仏語は一通りできればよいが、日本の歴史と地理は知っておく必要がある。給料や年収の分限に応じて物価を知り収支を踏まえ節約し、上辺の流行に走らず、音楽や社交など本質的な趣味を持つべき」など、常識的な事項を圭介は述べました。また「日本の教育は西洋教育に倣い知識に傾きすぎだ。体育を導入し智と体は十分になったが、忠孝を中心とした徳育の充実が必要」と、西洋知識に加えて道徳を教育で重んじるべきとします。「瞋恚(しんい)(怒りや恨み)は功徳(くどく)の林を火にし、愚痴は知恵の叢(くさむら)を火にし、貪欲は清浄の財を火にする。人の心は実に火事の家。徳はあたかも消防隊の如し」と、人の心は燃え上がりやすく、火消しとして道徳が必要と、性善説では収まらない人間の本質を圭介は述べます。当代随一の西洋知識を持つ圭介が、エリート教育で道徳を強調したことは印象的です。
また、嘉納治五郎(かのうじごろう)が圭介を助けました。嘉納は神戸市出身で柔道と日本体育の父とされ、古武術を理論化した教育者です。当時弱冠二十五歳の非常勤講師だった嘉納を圭介は信頼し、教頭に抜擢しました。圭介と嘉納は意気投合し、華族だけでなく士族、平民からも積極的に優秀な子弟を選び、切磋琢磨(せっさたくま)させる中で学習院の教育の質を高めようとしました。
こうした圭介の姿勢は華族には不評だったと、軍人から後任の学長になった三浦悟楼(みうらごろう)は述べています。圭介は二十一年、学習院長・華族女学校長を退任しました。三浦は、学習院は一般の学校と違い、華族へは高尚な教育が必要だと考え、華族子弟を優遇し、海外留学の選抜を華族に絞るなど身分の違いを重視し、軍人養成に力を入れました。嘉納は三浦と意見が合わず、嘉納も二十二年退職し、欧州視察に赴きました。圭介退任の詳細な理由は不明ですが、経緯は福本龍氏著「われ徒死せず」に触れられています。華族女学校英語教師の津田梅子は「大鳥将軍が辞められたことは大変残念。彼は経験豊かで、大変有能な経営者でした。万事に指導力を発揮し、万事に配慮する方でした」と、米国留学時のホストファミリーのランメン夫人への手紙で述べました。津田梅子は圭介に助言を求めて再度留学し、後に津田塾大学を創設しました。
明治三十三年、圭介は多年の功から男爵に叙され、自身が華族の一員となります。その二十年以上前から、圭介は華族にその義務を説いていました。明治九年圭介は華族会館で、「華族が大金を有しながら社会の疲弊に無策なのは華族の義務を果たしていない。貯蓄金銭をインフラ事業に投資運用し国を豊かにすべき」と述べていました。圭介の言葉から、真のエリート教育とは、生まれ持った身分によらず、国と社会を豊かにする責任を果たす知識と能力と道徳を薫陶(くんとう)することであると伺わせます。
学習院大学史料館には、圭介孫の蘭三郎氏寄贈による多数の圭介関係史料が所蔵されています。平成二十六年、目録が史料館紀要に公表されました。目録作成における上郡町大鳥圭介資料館への謝辞が述べられています。なお、所蔵史料には明治二十一年頃の東北茨城日記、アイヌの風俗を記した北海道旅行記録、三十四年~四十三年の定型日記等、未解読の圭介日記も含まれます。圭介についてのさらなる発見が期待されます。

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